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柔らかい雨


スーツを着て、傘もささずに
この雨の中佇む人がいた
人が往来する真ん中で
周りは変な人を見るような、
若しくはそもそも視界に入っていないような
まるでそこに存在しないかのように過ぎ去っていた

その人を見つけたのは私ただ1人だった

「こんな所に居た」

ザァザァと地面を打つ雨に掻き消されないように、少し大きめの声
傘は少しそちら側に多めに傾けた

「なんで、」
「何となく、ここら辺かなって」

そんなの嘘だ、本当はあちこち走り回った
お陰で靴どころか服まで濡れて色が変わっている

「とりあえず帰ろうよ、それから考えよ」

逃げる素振りを見せないから、多分もう限界なのだと思う
拒否することも、肯定することも無い貴方の手を私はそっと掴まえた

ポツポツと歩き始めた貴方と肩を寄せあって
なるべく貴方が濡れてしまわないようにして
あと10分程で家だろうか、という所で貴方は小さく言葉を零し始めた

さっきまでなら消えて私には届いていなかったであろうその声は
いつの間にか柔らかい雨となったそれと共に
心地よく私の耳に届いた

「そっか」
「うん」

私達にはこの言葉で十分だった
流れていく雨と共に貴方の涙も流れ去って
腫れた目をした貴方と、貴方の大好きなものを沢山食べて
明日また、今日を始める

11/6/2023, 10:10:23 AM