『夜景』
マンションの一室に、私は居た。
目の前には、倒れた人がいた。
もう二度と起き上がることはない。
ぼさぼさになった髪を解き、手ぐしを通そうとした。
紅く染った手や服を見て、私は罪を犯したことを悟る。
汚れてしまった服を脱いで、その部屋にあった服を着た。どの服も売れば、すぐ金になるようなものばかりだ。
罪を犯して気が抜けたのか、空腹が一気に襲ってきた。
手袋すればよかったと後悔しつつ、冷蔵庫に手をかける。
整頓された冷蔵庫には、昨日食べるであろう月見団子が置いてあった。
私は、月見団子を屍の隣で食べた。
20%の半額シールが貼られた月見団子はやけに味が濃い気がした。
電気をつけていない部屋は、月明かりに照らされている。窓から見える夜景は、この家に来た時と変わらずとても美しかった。
家の灯りの数だけ、灯りの数以上に人々は今日も息をしている。
最後の晩餐で、私は灯火の数々と命の美しさを、知った。
9/18/2024, 11:42:23 AM