独り言を紡ぐどこかの誰か

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【この場所で】

『桜が綺麗ですね。』

この場所でまた会いましょう という意味らしい
返し方は忘れてしまったけれど。

そんな綺麗な言葉を紡げるような人になりたかった
綺麗な言葉が似合う人間になりたかった。

継ぎ接ぎで中身のない、
言葉とすら言えないような叫びを並べて、
もうどうしようもないことを嘆く

見るに堪えない醜い人間だ。

"桜が綺麗ですね"なんて言われていたとしても
きっと私は覚えていないんだろうな。

似合わないのも当然か。

大人になったら__
そんな約束をどこかしたような。
何をするかという肝心な部分はあまり覚えがない

その子に、髪を伸ばしてって言われていた気がする
ずっとずっと伸ばしてて、背中が隠れるくらいまで。
最近バッサリ切ってしまった。

髪を切ってみると色々と楽で、結構気に入った
なんで今まで伸ばしていたんだろう。
ずっと切りたいとは思っていたんだよな。

話が逸れてしまったな。

私が髪を少し切るだけで怒っていたっけ
なんでなのか教えてくれた記憶はある。

服や髪に無頓着だった頃の私だから、
そんな特に印象に残らなかったのだろうか。

確かその子が"桜が綺麗ですね"って言っていた
綺麗な言葉が似合うひとだった。

大人っていつからなのかはよく分からないし、
どこで会うかも忘れてしまったけれど、

多分会っては行けない人だ。

なんでなのかは分からない。

全部、覚えがない。
でもほんとに忘れたことにするのはどこか寂しい

…わかっているんだ。本当は。

後悔してもどうしようもないことも
頭ではわかってるんだよ。

あの子も、あの言葉も、あの場所も。
覚えていないことにしたくて、
もう思い出したくなくて、

でも本当になかったことにするなんて、
消え去ることなんてできないよ。

私はあの子の象徴とも言える髪を切ってしまった。

どこかスッキリしたのも、そのせいだろう。

あの夏から少しずつ前へ進んでいる

きっとそうに違いない。

またひとつ、あの子の名残が消えてしまった。

悲しいような、嬉しいような、

髪を切った後の私なら私だって気付かれずに

貴女に会えるだろうか。

『桜、綺麗でしたね。』



2/11/2026, 1:12:00 PM