ミミッキュ

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"たくさんの想い出"

「みゃあ!」
「げっ…」
 居室で書類作業中、コーヒーが無くなったので空のマグカップを片手に給湯室へ行き、熱々のコーヒーで満たして部屋に戻ると、子猫が机の上に乗って、戻ってきた俺を見るやいなや大きな鳴き声を上げた。──居室で作業する時は、なるべくケージから出してあげている。──
「おい、机の上に乗るな。…全く、どうやって乗ったんだ?こんな高いとこ」
 マグカップを書類の脇に置いて、呆れた声で呟く。
 子猫を拾ってから数時間後、動物病院で診てもらいその時に、詳しくは分からないが恐らく生後約二、三ヶ月程だろうと聞いた。
 椅子に飛び乗って机の上に乗ったのだろうが、それにしても相当な筋力だ。この前ケージから脱走した時にも思ったが、これは思った以上にちゃんと躾しなくては。里親を探すのはそれからだ。
「はぁ…」
 ため息を吐きながら椅子に座り、再開しようと机に向く。
──まぁ、邪魔さえしなけりゃ別にいいか。
 書類に手を伸ばしかけて、ふと机の上に乗った子猫を見る。子猫が机の上の《何か》にちょいちょい、と前足を動かしてじゃれついていた。その《何か》を認めると、慌てて子猫を両手で持ち上げる。
「あぁ、こらっ。やめろっ」
 その《何か》は、貝殻の首飾り。子猫を膝の上に置いて首飾りを持ち上げ、状態を確認する。
──良かった…ほつれも欠けもない。
 首飾りが無傷であると確認して、胸を撫で下ろす。
 この首飾りを見ていると、貝殻を拾った時の匂いや音や温度感、会話。そして、共に作ったチャームを渡した時のあいつの表情…。全部が昨日の事のように思い起こされる。
 身に着けたのはあの時の一回きりだが、いつもこの首飾りをポケットの中に入れている。居室で作業する時は卓上に置いている。
 首飾りを見ていると、不思議と心が凪いでリラックスするから。
「みゃあ」
 首飾りを手に呆けていると、子猫の鳴き声で我に返る。
「おぉ…」
 視線を下げると、子猫が俺の膝の上に丸まってリラックスしていた。
──暖かい…。
 驚かさないよう慎重に書類を手に取って、作業を再開した。

11/18/2023, 2:17:22 PM