チリリリー…ン。
細く、けれどよく通るこのドアベルの音が好きで、よく通ったし、待ち合わせた。
今日は…1人かな?
仲の良いスタッフのお姉さんに、少し寂しげな表情で聞かれる。
私はホットコーヒーで、彼はココア。
さらに絶対にケーキも食べるという彼を、いつも胃の重くなる感覚を携えて見ていた。けれど、嬉しそうな顔。甘いものが嫌いな私でも、どれだけ美味しいものなのか食べてみたくなっちゃうくらいの。この店のケーキを口にした瞬間の顔が、本当に大好きだった。
チリリリリ…ン。
メニューから顔を上げてしまう。
……ああ、違った。
並んだケーキと、コーヒー。前回はケーキとココアを頼んでみたが、その後一日中何も食べられなくなったので、今日はコーヒー。
チリリリーン。
…違うか。
…食べ切れないケーキを頼んでしまったと泣きつけば、来てくれたりしないかなどと浅はかな考えを浮かべながらゆっくり食べ進める。
…違う。……違う。チリリリリン。……また違った。
違うって知っている。わかっている。けれど。
ベルが鳴るたび、何度もドアの方を見遣ってしまう自分を止められない。繰り返すうち、あんなに苦手だったケーキから、みるみる味がなくなっていく。
砂糖のたっぷり入った生クリームが突然しょっぱい。また耳に入る高いベルの音。何度鳴っても、もう君はここには来ない。知っていた。わかっていた。
このベルの音は私にとって、君を連れてきてくれるものだった。
*ベルの音
12/20/2022, 4:53:32 PM