渚雅

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「誰にも言えないことってある?」
「あるとは思うけれど,具体的な事言ったら破綻するんじゃない?」

小さく吐息を零して君は笑った。言われてみればそうなのだけれど,なんか妙にモヤッとした気分を感じた。特別な秘密を自分だけに教えて欲しいというわがまま。その感情を要約してしまえばそう言えた。


「それに言えないというよりは,言わないが近い」

独占欲にも似ている感情。目の前の相手の例外に 圧倒的かつ唯一の特別になりたいと願ってしまった。

口を噤むその理由すら全部さらけ出して貰えたらなんて身勝手な願い。それを見越したように細められる君の真っ直ぐな瞳。


「ああでも,他人には言わないことでも 君ならいいかな。聞きたい?」

婀娜っぽい いたずらな笑みを浮かべて視線を絡めてくる。知りたい?秘密。と囁いて近づいてゆく距離。普段と同じその近さが妙に気恥しいのはきっと君の纏うどこか甘い香りのせい。くらりと酔いそうなホワイトムスク。

声も出せずに視線もそらせずにただ黙って頷く。雰囲気にすら惑わされそうな思考回路はすでに不明瞭。


「あのね,ーーーーーー」

その先は誰にも教えない。二人だけの秘密。

6/5/2023, 12:34:42 PM