傷つくことないし傷つけることもない。
話を聞いてあげなきゃとか、何か話題をふってあげなきゃとか、そういう気を回す必要もない。
だから一人でいたいのよ。楽だから。それに尽きる。なのに君は。
「これから帰るの?んじゃ、駅まで行こうよ」
どういうつもりか、あたしのことを見つけてはすぐさま寄ってくる。なんなの、もう。まさかあたし見張られてるの?断ったっていいけどさ、どうせあたしの後ろをついてくるんでしょ?それはそれでなんかウザい。だから、“勝手にすれば”だけ言ってあたしはさっさと歩き出した。わざと速歩きしてんのに、君は爽やかに笑いながらあたしの隣を歩く。ちょっと感心した、でもやっぱ、ムカつく
「……そろそろ言ったら」
「なにが?」
「なんで毎回あたしに絡むわけ?うちら大して仲良くないはずだけど」
「えー、そんなこと言わないでよ。寂しいなあ」
相変わらずのヘラヘラ顔で言ってきた。これはもしかしてはぐらかされたのか。どっちでもいいけど、もう駅だ。これでやっとまたひとりになれる。じゃあね、と言って改札を抜けようとするあたしの背後から弾んだ声が飛んできた。
「また明日!」
「……は」
振り向くと、彼はもう自分の乗るホームへ走り出していた。どうやらちょうど電車がきたらしい。アナウンスで『駆け込み乗車はおやめください』と言われていた。絶対にアイツだ、と思った。
よく、分からないけど。
明日もまた、あたしに会いにくるという意味なのだろうか。冗談やめてよ。また一人の時間をとるつもり?ならば明日こそは、放っておいてよとでも言いすててやろう。絶対に言うんだ。そしたら彼はどんな顔するだろうか。またヘラヘラ顔を見せてくるか、驚くか、悲しむか――
「まあ、いいや」
言うかどうかはまた、明日考えよう。あたしも早くしないと電車がきちゃう。彼は無事に乗れたのかな。それもまた、明日聞いてみるか。気が向いたら。
8/1/2024, 6:59:16 AM