「そう、それでさあ……あ」
休み時間、十分の刹那。友人との談笑に興じていた僕はしかし、彼らに「ごめん」と一声かけ、廊下へと駆け出した。
「あ、やっぱり君だった」
「待って、今足音だけで私だって判断して教室から出てきた?」
【僕だけが知る君だけのメロディ】
「だって君、足音わかりやすいじゃん。すごく独特のメロディを刻んでる」
「今までの人生で一度も言われたことないよ、それ」
なんてやり取りをそばで見ていた、恐らくは君の友人が「彼氏さん?」なんて笑い混じりに彼女に確認する。
「もぉー……。友達といるときは出てこないでよ、恥ずかしいじゃん」
「そんな思春期の娘みたいな態度を取られると、少し傷つくなあ。せっかく君の顔が見られる機会なんだから、教室くらい飛び出すでしょ」
「ぐぬぅ……。今度から君の教室の前だけ三三七拍子で歩こうかな」
「そんなリズミカルに歩いてる人がいたら、僕じゃなくても見に行くと思うけど」
斜め上の方法で問題の解決をはかろうとするところが可愛らしい。
「私、この子の足音なんて気にしたことないや。愛されてるんだね」
彼女の横にいた友人がそう言ってころころと笑う。鈴の音みたいに美しく響くそれはだけど、たぶん明日には忘れてしまうだろう音だ。
「私の足音を気にする奴がこの世に二人もいてたまるか。一人だって抱えきれないのに……」
君の言葉に、心の中で同意する。僕だけでいいのだ。君が奏でる旋律、その価値を知っているのは。
6/13/2025, 2:29:10 PM