優しさだけで、きっと
俺は、あいつが嫌いだ。
誰にでも同じ顔で笑う。
頼まれれば断らない。
自分のことは何も言わないくせに、他人のことにはやたら詳しい。
教室の窓辺からたまに見かけるあいつの背中はいつも寂しそうだった。
俺は、嘘つきなあいつが心の底から嫌いだった。
ある日、あいつが泣いていた。
人のいない裏の通路で、しゃがみこんで、声を押し殺していた。
俺は、すぐにそこから立ち去ろうとしたが、彼女が先に俺に気がついた。
にへらと笑う彼女に俺は舌打ちをした。
彼女は驚いた顔をし、俺の袖を弱々しく掴んだ。
「なんで、泣いてるの?」
俺は、そいつの手を振り払い、その場を去った。
息がうまくできていなかった。
喉の奥が詰まり、視界が滲んでいた。
「ちょっと待ってよ!」
彼女は、息を切らし、俺の腕を掴んだ。
「……!
ふふ、すごい顔」
「……、見るな」
「…ありがとう。」
何に対しての言葉か、分からなかった。
分からないまま、手を振り払い、俺は涙を堪えた。
息がうまくできなかった。
視界の端が、少しだけ揺れた。
それだけでいいはずだった。
それなのに、
何もないはずの場所に、あいつの気配だけが残る。
あぁ、やっぱり——
俺は彼女のことが嫌いだ。
嫌いなはずなのに。
5/2/2026, 11:04:59 AM