『君と』
どこに行きたいなんてない。
何がしたいなんてない。
ただ君と一緒に過ごすことができれば、
それで構わない。
はじめは僕もそう思っていた。
塩胡椒の味しかしない鶏胸肉を酒の肴に
テレビもつけず寝るまで話し込む夜も、
目を覚ますと隣に君がいて
顔を覗き込んではまた静かに目を瞑る朝も、
そんな日常が幸せだった。
いつのまにか電話をするのも面倒になり、
何かと付けて「生産性が」と口にするようになった。
何が正解で何が間違いかは分からないけれど、
生産性が皆無に等しい日常の中にも
小さな幸せを見出せる相手こそが
きっと愛してるということなのだろう。
もしかしたら、君ではないのかもしれない、
正解のない人生を後悔しないように生きるためには
今君の手を離さず、
ただひたすらこの日常を流しているだけでは
いけないのかもしれない。
新たな旅に踏み出すたった一歩の勇気が
僕にはまだ沸いてこない。
4/4/2025, 4:37:23 AM