秋はなんとなく寂しくなりやすい、気がする。夏はあれだけ鮮やかだった景色達が、突然アンティーク調の落ち着いた色になって大人びてしまうのだ。
町中を見回しても、見えるのは深紅にボルドー、バーガンディにブラウン。どれもこれも夏のような鮮やかさは鳴りを潜め、くすませたような風合いしか見当たらない。作物が実り動物達が出てくる夏から、厳しい寒さと飢えに怯える冬へと移行する。勿論、秋自体には豊かな実りと動植物達が関わり合っているが。
とにかく、世界がそういった古ぼけたような色になるせいで、秋は気分が落ち込むような、実感が湧かなくてぼんやり生きているような、そんな気分になりやすい。天気が不安定で曇りがちなのもあるかもしれないが。少なくとも俺は、秋になるとどうしても寂しさが湧き上がってきた。
はずなのに。この秋景色に似合わないような、夏の残滓を色濃く映した奴が真横にいるせいで。俺は気分的に季節の移ろいを感じることもできず、微妙な顔をしていた。小学生の頃、絶対に学年に一人はいただろう、真冬でも半袖短パンの人。アレが、俺の親友だった。真冬に関節を真っ赤にして、それでも頑なに長袖は着ようとしない。昔から変な奴だった。
ちらりと横を見やると、今日も相変わらずの半袖短パンで歩き回っている。周囲の風景はもうすっかり秋なのに、コイツだけ夏すぎて浮いている。大人びた色合いの中に、ぽっかり浮かんだ鮮やかな空色。場違いにも程がある。
けれど、やけにそれが面白くて、俺は思わず笑みがこぼれた。それは段々深まっていって、しまいには大声で笑った。
「え?え、何……えっ?」
割と本気で困惑しているアイツの声さえツボに入って、中々笑いが引かない。5分程してようやく落ち着いた頃、アイツが困惑を前面に出した顔で、とりあえずといったように背中をさすってきた。
「なんでもない……ふはっ……んん、大丈夫。」
そんな俺の態度にアイツの困惑がますます深くなるのは感じたが、絶対教えてやらない。
誰もがセンチメンタルになるような秋色の世界で、唯一人の満面の笑みを引き出せる奴。そんな奴の存在を、今は俺だけが独占していたかった。
テーマ:秋色
9/20/2025, 2:43:08 AM