夏の終わり。
夏も終わりにかかり、段々と秋が深まってゆく。
そんな季節の変わり目でも、私と彼は一緒に下校していた。帰り道の景色は移ろうとも、関係は移れない。
いつもの様にドキドキしながら、今日の出来事を話す。
授業の話から始まり、全く関係の無い話へと変わる。
その中でふと出て来た彼の言葉に、私は固まる。
「そういえばさ、いつも僕と一緒に帰ってるけど、
好きな人とか、彼氏とか居ないの?」
彼は立ち止まり、私の目を見てハッキリと聞いてきた。
貴方が好きです。
なんてまぁ、言えるはずも無く。
〔いや、うん。いるにはいるんだけれど。何と言うか、
友達、って感じ?〕
あやふやで曖昧な答えを、彼は真剣に聞いていた。
何となく、不安が過る。冷や汗が出てきた。
「へぇ。」
彼はそれだけ言って、また前を向いて歩き出した。
私も後をついて行く。
明らかに、返答を間違えた気がする。
何と言うか、先程からの彼との空気感が、気まずい。
「僕は、好きな人が居るんだ。
ちゃんと、本気で好きになった人なんだよ。」
こちらを振り返らずに、歩きながら彼は言った。
心臓が跳ねる。彼は続けた。
「まだ、好きって言えてないんだ。」
誰に?その事だけが頭の中をぐるぐるとしてる。
黙っていると、彼は振り返り、少しだけ震えた声で
「…ねぇ、僕にさ、他に好きな人がいたら、キミは嫌?」
そう言った。
私の手を取って、彼は自身の胸に当てる。
私より、鼓動が早い。
〔…うん。すごく、嫌。〕
私は彼をしっかりと見る。ハッキリと、彼の目が見開かれた。彼の震えた手は、私の取った手に力を入れ、
「好きです。」
一言だけ、言ってくれた。
本気の恋なのは、貴方だけじゃない。
私も少し震えた手で、彼の手を取って、
〔私も、ずっと好きでした。これからも、好きです。〕
彼は今までで一番優しく、眩しい笑顔になった。
季節と共に、私達の関係もゆっくりと動き出した。
9/12/2023, 2:08:23 PM