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 今日の学食の日替わりメニューは、佳子の好物であるアジフライ定食であった。さっくりとした衣に、ふわふわのアジ、それにピッタリ合うタルタルソース。キャベツが山盛りなのも、案外うれしいポイントだった。
 その大好物が、今まさに目の前にあるのだが、佳子は箸を置いたまま手を付けようとしなかった。彼女の目は、アジフライではなく、手にしたスマートフォンに釘付けになっている。スマートフォンに表示されているのは、一通のメール。タイトルは、選考結果のご連絡。そして、メール本文には『残念ながら、この度はご期待に添いかねる結果となりました』の一文。テンプレートをそのまま使ったような、ありきたりなお祈りメールだった。
 佳子の口から、ため息とも自嘲の笑いともとれる吐息が漏れた。
 このお祈りメールで、連続記録は二十に伸びた。二十回連続の不採用通知。プロ野球だったら、監督が辞任している。だが、自分で自分は辞められないので、その現実を粛々と受け止めるしかないのだが、さすがに二十連敗ときたら精神にくるものがあった。特に、今回は最終面接まで進んでいたのだからなおさらだ。大好物に対する食欲だってなくなる。
 いや、むしろこういう時だからこそ、大好きなものを食べて気分転換をしようと、佳子はスマートフォンを置いて、代わりに箸を取った。しかし、アジフライには向かわない。彼女は食べるでもなく、ワカメの味噌汁をぐるぐると箸で搔き回す。
「何、味噌汁かき混ぜてるの?」
 よく知った声が聞こえて、佳子はぱっと顔を上げた。そこには、親友の夏希がいた。彼女はカレーうどんを片手に、佳子の対面の席につく。
「また、落ちたの?」
 さすが親友というべきか、夏希は一発で言い当ててみせた。佳子は「うん」と弱々しい声で頷く。すると、夏希は盛大に顔をしかめた。
「なんだよ、まったく見る目のない会社だな。よしちゃん落とすとはセンスないわー」
 それはいつもの励ましの言葉だった。それが、今日ばかりは佳子の心に、重くのしかかる。二十連敗のせいだろうか。急に毎度毎度励まされることが、申し訳なく思えてしまった。
「ごめんね……」
「なんで、謝るの?」
 突然の謝罪に、夏希は目を剥いた。
「いや、なんか、そうやっていつも励まされてばっかりなのが、情けなくて」
「気にしなくていいよ」
 佳子が答えると、夏希は平然とうどんをすすった。いつも通りの親友に、佳子は少し笑った。けれど、未だにアジフライに箸が伸びない。
 ふいに夏希が言った。
「よしちゃん、就活に根詰め過ぎだよ。別に面接に落ちたからってよしちゃんの良いところがなくなるわけじゃないし。ましてや、死ぬわけじゃないし」
 夏希は箸を置くと、スマートフォンを取り出した。それから尋ねる。
「よしちゃんは、今日、午後も講義あるの?」
「ないよ」
「よし、じゃあカラオケにでも行こう」
「でも就職課に行って、相談してこようかと……」
「それは明日でもいいじゃん。まずは気分転換が先。ってか、もう予約したから」
「えっ」
 佳子が声を上げると、夏希は不敵に笑った。
「按ずるな。いざとなったら私が養ってあげるから。そう思って、今は就活のことなんか忘れてパーッと遊べ」
「何それ……」
 つられて佳子も吹き出す。
「私を養うって本気?」
「冗談。でも、よしちゃんが病むくらいなら、本気」
 なんてことないという風に言ってのけて、夏希はうどんをすすった。
 佳子の心に、ぽっと火が灯る。彼女がいるなら、もう少し頑張れると思った。だから今日は、就活のことなんか忘れてしまおう。
 ようやく、佳子はアジフライを一口食べた。すっかり冷めてしまっていたけれど、とても美味しかった。

11/24/2025, 5:19:59 AM