たけたけ

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 どぼん、じゅわ、と大きめの水音の後に耳障りのいい炭酸の弾ける音が浴室に響く。今しがた湯船に放ったそれは帰り道立ち寄った家電量販店で買った『子供向け入浴剤』だ。

 頭を洗い終え視線をやると、水底で徐々に溶け出していた塊はわざとらしいピンク色を散りばめながら浮上する。既にボロボロになりつつあるそれに手を伸ばすと、崩れた中からつぶらな瞳の玩具が顔を出す。

「あんまり可愛くないなあ」
 『海のなかまたち!何が出るかお楽しみに!』
 そう銘打たれたパッケージに手が伸びたのに可哀想なくらい値下げされていたから以上の理由はなかったが、買ったからには心躍らせる『何か』を求めていたのだろう。
 ──まるで子供のようだ。
 シャンプーの横に小さな魚モドキを置くと、桃の香りのする湯船にいつもより軽い足取りで浸かった。

10/14/2023, 8:47:45 AM