ガルシア

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 ぱしゃり、と音を立てて水面が揺れる。少し季節の外れた海は冷たく、少しずつ体温を奪っていたがそれすらも心地好く思えた。耳に届くのは波の音。一定に繰り返す落ち着いたそれは脈拍に似ている。
 髪が風を孕んで広がった。前までは潮風で痛むのを酷く嫌がっていたはずなのに、今となっては気になりもしない。こんなに海という場所は居心地が良い場所だっただろうか。それとも、貴方がいるからか。
 一週間前、小さく小さく骨の形もなくして海に眠った貴方。もし自分が死んだらそうしてくれと言われたときは日焼けも水着も嫌がる私へのあてつけかと拗ねて見せたが、眉を下げて頭を撫でてくれる彼に断ることはできなかった。今となってはとても後悔している。
 骨になっても同じ家に居てくれたら良かったのに。子どものように水を蹴り上げて鼻をすすった。皮肉なほどに綺麗な星空にすら腹が立つのも全部、貴方のせいだ。海なんかになってしまった貴方のせい。私を残していった貴方のせい。
 貴方には夜にしか逢いに来てあげないから。毎晩毎夜、病めるときも健やかなるときも喜びのときも悲しみのときも富めるときも貧しいときも。夜だけを、海に全部捧げてあげる。


『夜の海』

8/15/2023, 12:22:41 PM