オレの心は光と闇の間で揺れていた。
今、オレの目の前には、財布が落ちている。
もちろん拾って交番に届けるべきなんだろう。
その一方で、この中に入っている金をネコババすれば、生活は楽になる。
自分の中の天使が言う。
―困っている人を助けるべきだ、と。
自分の中の悪魔が言う。
―大丈夫、バレはしない、と。
悪魔はささやく。
―これでいいものを食おうぜ、と。
悪魔はさらに追撃をかける。
―欲しいゲームあるだろ、と。
悪魔はこれでもかと誘惑する。
―よし、じゃあ買い物行こうぜ、と。
さっきから悪魔の押しが強い。
天使も助けるべきだ、としか言わない。
もっと無いのかとも思うが、オレも何も思いつかない。
自分の心は汚れているのだろうか?
違う。
たとえ心は汚れていても問題ではない。
どう生きるか、どう行動するかが問題なのだ
確か、婆ちゃんもそう言ってた。
そうと決まれば話は早い
オレは財布を握りしめ、近くの交番に向かう。
意外にも悪魔は反対しなかった。
そして悪魔はつぶやく。
―まあ、落とし主が美人かもしれないからね、と。
期待してないといえば嘘になるが、そんな都合のいいことはない。
交番に行って遺失物の届け出を書いていると、なんと婆ちゃんがやってきた。。
「あら、その財布。おばあちゃんのものね。拾ってくてありがとう」
そう言って婆ちゃんは、いくつかの確認の後、財布をお巡りさんから受け取る。
一緒に家に帰ったあと、婆ちゃんは財布からお金を取り出して、オレにくれた。
「拾ってくれて、ありがとうね。はい、お小遣いあげるわ」
オレは、渡されたそのお小遣いを、どんな感情で受け取るべきなのか?
オレの心は光と闇の間で揺れていた。
12/3/2023, 9:26:53 AM