目が覚めるまで、僕は何をしていたのだろう。
「夢遊病」というものがある。
睡眠中起き出して、意識もなく歩き回り、そして目が覚める。
最初は大層な寝相アートを創り出したなあ、という自覚だった。着ていた服が投げっぱなしになって散乱していたし、紫色の毛布はずるすると部屋の外の廊下に飛び出していた。
家出を検討する真面目な中学生みたいな、精神は家出済みだが、身体は家にいるような、ためらい。
しかし、連続ドラマの最高視聴率を叩き出したものをやってしまったときは、ちょっとおかしいな、自分。
と改めて認識した。
同一人物でないと思った。
どういえばいいのだろう。
ひとつに統合されてないというか、身体と心が分離したかのようだった。
所詮身体は心を乗せる有機物の籠でしかなく、主体性のある何者かによって操縦されている。
順当に飛行していた旅客機が墜落した跡の、その残骸を見た。
ベッドの中で気を失うように眠ったはずが、家の外の道ばたで寝ていた。
あれ? どうして僕は……
起き上がって足を見ると靴を履いていない。
靴下も履いていない、裸足だ。
どのような歩きかたをしたのだろう、土踏まずにも灰色の小さな石が付いていた。
それらを払い除けて、アスファルトの路地を走り、戻る。
裸足で道を歩くと新鮮な感じだ。とても痛いのは、不健康だからか。
違う、道を作る材質の硬度のせいだ。
玄関扉まで戻ると、なんと鍵がかかっている。
ポケットをまさぐる。
チャリンと鍵の在処を示した。
ちゃんと僕は鍵をかけて出たっていうのか?
まさか!
大慌てで手を入れ、鍵を取り出し、本物であるという証明音が聞こえる。確信のもと、中に入った。
特に何事もなく夜を過ごした靴があって、部屋があって廊下があって、リビングは……と、リビングまで歩くと異変がある。
リビングの窓が全開になっていて、白いレースのカーテンが内側に迫っていた。
ふわりと、外の風で膨らませていた。
こんなふうに、見えない何かで僕は膨らんでいる。
膨らんで、そして縮まって、また大きく膨らむ。
このカーテンの柔軟さに、僕は助けられている。
8/4/2024, 9:40:39 AM