〔久しぶり、じいちゃん。〕
私がそう声を掛けると、お祖父さんは子供のように、
嬉しそうにこちらを向いた。
「おう。元気にしてたか?学校は?友達と仲良くしてるか?」
矢継ぎ早にそう言った。
私は少し照れくさくなって、お祖父さんの顔を見れずに
〔とりあえず元気だよ。テストもぼちぼちだし、新しいクラスで友達がもうできたんだ。〕
短い前髪を整えながら、答えた。
するとお祖父さんは笑って、
「すごいな。」
と、一言だけ言った。
私は、お祖父さんの座っているベットに歩み寄り、腰を掛けた。
〔じいちゃんも、元気そうだね。良かった。〕
そう笑うと、お祖父さんは
「そうだな。今は凄くいいよ。だから、もっと話をしてくれ。久しぶりだから、色々なことがあっただろう?」
ニコニコとしたまま、そう話すお祖父さん。
私は、学校のことから、家のこと、果てはその日道で見かけた野良猫の毛柄まで話し込んだ。
今になって考えれば、幼いながらに感じていた。
お祖父さんががやつれていって、お母さんが辛そうな顔を時々見せて、お父さんも私をお見舞いに連れて行ってくれるたび、少し笑顔が歪で。
お祖父さんが、どこか、もう、話せない程に遠い、手が繋げ無い程に遠い、どこかに行ってしまうと、感じていた。
だから、どうでもいいような事まで必死に話し込んだ。
泣いてしまいそうになるから、お祖父さんの顔を、あまり見れなかった。
しっかりと目を見ると、ボロボロに泣いてしまいそうだったから。
〔あっ、そうだ!これ持ってきてたんだ。
見てみて、懐かしいでしょ?〕
はっとして、私はポッケからコマを取り出し、机の上に置いた。
「まだこんなの持ってたのか?今は、新しいおもちゃとかあるだろうに。」
お祖父さんは苦笑いをして、そのコマを手に取った。
〔だって、病院暇だと思ったんだもん。でも、この机じゃちっちゃくてコマ、回せないね。〕
お祖父さんはまた笑って、
「そうだな、退院したら、また遊ぼう。だから、それまで取って置いてくれ。」
私の頭に手をポンと置いて、そう言った。
そのコマは、お祖父さんが亡くなって十年を経た今でも、
ずっと捨てられないで持っている。
一人で回しても、楽しくないのに。
8/17/2023, 10:54:03 AM