ー 君と最後に会った日 ー
僕は 彼女と初めてあった日のことを まるで昨日のようにありありと思い出すことが出来る。
それは 暑い夏の日。
セミの鳴き声と どこからか聞こえる子供の声と 太陽の悲鳴と。
それに満ちた日であったことを 僕は脳の隅から隅まで しわ一つ一つまでに記憶している。
僕は 子供の声を浴びながら 公園のベンチに座っていた。
高校生だった僕は かつて自分も通った時代である 小学生 という姿にある種の憧れを抱いていた。
今どき 高校生が こんな時間に鬼ごっこをしていたら きっと頭を疑われてしまうだろう。
彼女はそんな時に現れた。
僕が そろそろ。と腰を上げようとした時だ。
「きみは 鬼ごっこが好きなの? それとも 小学生が好きなの?」
いつの間にか目の前に立っていた少女は僕に聞いた。
「変なレッテルを貼らないで欲しいな。ただ ぼーっとしていただけだよ。」
ふーん。とつまんなさそうな声を上げ 彼女は隣に座った。
「ねぇ。今ひま?暇ならわたしと遊ぼうよ。」
「暇じゃない。」
そっか。と落胆の声を上げ 彼女は席を立つ。
「多目的トイレ。そこを開いてみて。これはわたしの お願い。」
もちろん。そのまま帰ってもいいよ。
僕は 変な少女の言葉を無視し その場を離れた。
ふと。何となく ただ 本当になんとなく。
後ろをふりかえった。
先程までいた彼女の姿はもうなく そこには子供の声のみが響いていた。
僕はどことなく溢れる違和感を胸に 家に帰った。
夕食時 テレビをつける。
ニュースです。と喋るニュースキャスターと その隣の少女の写真。
僕は 違和感の正体と 彼女の願いの意味を理解した。
あんな暑い日に 目の前に立たれたら 影で分かるものだ。
6/26/2023, 3:27:47 PM