彼女は昔々は大層優秀で、何某かの賞だとか、さまざまの優勝だとかを山ほど取って歩いており、才女だ天才だと持て囃されていたのだが、あるとき道端で猫を撫でている冴えない男を見かけて自分もその猫を撫でてみたくなり、わたしも撫でていいですか、ええ野良ですから大丈夫だと思いますよ、などと一言二言喋ったところでその猫は男の後ろに隠れて彼女には見向きもせず、そんなことがもう大変に悔しく気に食わず、むすくれたところを、男が何やらひどく微笑ましげに見ているのに気づき、そのせいなのかなんなのか、なんだかそれまでのピンと張っていたものが緩んでしまって、それで彼女は天才をやめ、猫を愛でる穏やかな生活を開始して十年経つ……というところで、今、彼女は病を得た愛猫の背を優しく撫でながら、さて、たまには天才をやってやりますか、と言ってにゃあにゃあと猫語を喋りだし、どこが痛いとか何が気になるだとかを本猫に聞き取り始めたのである。
#たまには
3/5/2024, 2:42:01 PM