フィクション・マン

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『夏の気配』

6月だというのに、雨が降らず晴れが多い。
そのせいで、気温は三十六度にもなって、とてつもなく暑い思いをしている。
僕はその日、土曜日だったんだけど部活をしに学校へ向かっていた。
吐き気が出るほどの猛暑日で、もう夏なんじゃないのかと思い込んでしまうほどだった。
どこが梅雨時期なんだよー…もう…と、思いながら汗を大量にかきつつ、途中自転車から降りて水分補給をとる。
今日はいつにも増して暑い日だった。
その時、僕の目の前を羽音をたててなにかが通った。
突然のことだからびっくりして自転車を倒してしまう。自転車を立ててると、なにやら虫の鳴き声が遠くから聞こえてきた。
……ミーン…ミーン…。
え???セミ!?
耳を澄ますと、遠くからセミの鳴き声が聞こえてきた。
しかも、方向的に学校の方面からだった。
まだ六月だというのに、暑いからセミが起きちゃったのかな?と考えた。
とりあえず自転車に乗って僕は学校へ向かった。
やっぱり、学校へ近付いてくるとセミの鳴き声が強まってきた。
ていうか、セミってこんなでかい鳴き声するっけ?と疑問に思った。
そして、学校に着いた瞬間、やっぱりセミの鳴き声が校舎から聞こえてきた。
時間的に、部活が始まるまで少しあるため、昔から昆虫に興味があった僕は、セミの鳴き声を辿ることにした。
グラウンドに生えている木の近くからするので、その木に近づいてみる。
近づいた瞬間、セミは鳴くのをピタッと止めた。
木をまじまじと見てみると、三匹のセミがまとまっているのがわかった。
セミは一切動かずに止まっていた。
あれ?今鳴いてたよな?
僕もジーッとそこでセミを見つめながら佇む。
「…おい…まだ見てるぞ…」
「どうするよ…?やっぱり鳴くのはまだ早かったか…?」
「いやでも…今年は暑いしさぁ…しょうがなくない?」
「夏を伝えるのが俺らの役目だが…今回はちょっと早かったかもなー」
当たり前のように、セミが喋り始めた。
僕はその異様な光景に目を奪われて、何も喋ることが出来なかった。
「多分この会話も聞かれてるだろうよ」
「じゃあ喋るのやめるか?」
「うん。喋るのやめて早く鳴こうよ。夏が近付いてるのを知らせるチャンスだよ!」
「それもそうだな」
そう言ってセミはこっちの方を向いて僕に喋りかけてきた。
「おい人間、セミが鳴くにはまだ早い時期って思ってはしないかい?あのな…俺達は暑けりゃいつだって出てくるんだぜ」
そう言って、セミは思いっ切り鳴き始めた。
耳をつんざくくらい、とてもうるさいその鳴き声は、耳を塞がざるを得ないレベルだった。
「いっ……!!!!」
鼓膜が破れる!!やばい!!!
僕はその場から離れることにした。
自転車置き場まで走って、僕は耳から手を離す。もう少しで鼓膜が破れてしまうところだった。
頭がさっきの鳴き声のせいでガンガンしていた。
それにしても…さっきのセミ達はなんだったのだろうか。喋っていたし、普通に意思疎通出来そうだったし…。
色々と考えたが、よく分からなかった。
とりあえず、もう一度耳を澄ませてみる。
……セミの鳴き声は、もう聞こえなかった。




6/29/2025, 3:42:05 AM