題名 『繊細な花』
小さい頃は、"繊細"と聞くとそれはそれは弱々しい物だと思っていた。
然し、辞書を引けば其処には"壊れやすい""傷付きやすい"等と書いて有る。じゃあ、繊細と言えば何だろう。
硝子は繊細で割れやすいと言う。
そんな事を考えていると、彼女の病室へ足を運んだ。
彼女は窓から花の頼りをじっと見ていた。
彼女の後ろ姿は、儚く、悲しく、そして、"繊細"。
治療で折れそうな位細くなった体。
散った髪の毛。
『たっ君、今日も来てくれたんや、!』
そう、微笑む。向日葵の様な笑顔だ。
『おん、来たで、』
数ヶ月前迄は、バームクーヘンが入った袋を握っていた左手でそっと手を振った。
『忙しぃのに御免な、』
彼女は少し、申し訳なさそうに苦笑いをした。
『ええよ、俺が来たいだけやし、』
そう言い、常に用意されているパイプ椅子に腰掛けた。
『今日は治療無いん、?』
『おん、無いんよ、』
珍しい。彼女は最近ずっと治療続き。
腕には赤紫の丸い痣が幾つも有る。正直に言ってしまえば、"可哀想"なのだ。でも、彼女は泣かない。
病気になるの前は、"繊細"な女の子でちょっとした事で電話して来て、グズグズしていたのに。
すると、彼女は少し悩んでから口を開いた。
『うち、治らんかもね。』
そんな、悲しい言葉。
彼女の目はあの、"繊細"な目をしていた。
否定しなければ。咄嗟にそう思った。
『大丈夫、絶対治るんやから、』
無責任な事を口にする。
彼女は眉を八の字ににして、首を傾げた。
『そぉかなぁ~、治ったらええな。』
彼女のそんな言葉に何故が全身が震えた。
もし、治らなければ、彼女は死ぬ。
じゃあ、死んだらどうなるのか。
天国は良い所なのか。そもそも、天国は有るのか。
暗い闇の中、とぼとぼ歩くだけの世界じゃないのか。
彼女は泣かないか。寂しくならないか。
一番、"繊細"なのは俺なのかもしれない。
もう、とっくに十九時。
流石にそろそろ帰るかと立ち上がると、彼女も立とうとした。
『無理せんとってッ…、?』
『ううん、うちが見送りたいだけやから、』
と、歯を見せて笑った。
看護婦さんに支えられ乍、病院の出口迄彼女と来た。
『ほな、明日も来るからな、』
『おん、有難う。気ぃ付けや、』
彼女はそう言うと病室に戻ろうとした。
伝えたい。此れだけは伝えさして欲しい。
『花ッ、!!!』
病院の出口は俺が彼女の名前を呼ぶ声で包まれた。
彼女が振り向く、俺は彼女の目を見て声を上げた。
『無理すんなよッ、!!!俺が居るからッ…、!!!泣きたい時は泣けッ…、!!!』
彼女の目からダイヤモンドの様に輝いた涙が溢れていた。きらきらしていて、綺麗だ。
『有難うッ…、!!!』
彼女はまた、花はまた、雨に濡れた向日葵の様な暖かい笑顔を見せてくれた。
2023.6.25 【繊細な花】
6/25/2023, 10:33:05 AM