何もいらない(オリジナル)
「乾杯」
自宅にて妻とワイングラスを捧げて乾杯した。
僕の仕事上の相棒が今日、結婚を発表したからである。
独身芸能人として人気が高かった我々は、お付き合いを表に出すわけにもいかず、とはいえ、長い付き合いとなれば年齢的にけじめをつけないわけにもいかず。
どうするんだろうと見守っていて、いい加減痺れを切らしていたところ、一昨年、目の前の妻が救世主のように僕の前に現れたのであった。
「作戦成功だね」
「本当に。ありがとう」
僕は心から礼を言った。
彼女は僕の共犯者だった。
僕は相棒の事が誰よりも好きだった。
彼よりも好きになれる女性がおらず、さりとて男が好きというわけでもなく、人並みに親を安心させたい気持ちもあった。
悩んでいたところ、彼女が僕の感情に勘づいて、声をかけてきてくれたのだった。
僕の事情とは異なるが、彼女も立場やらもろもろでひとりでいる事に煮詰まっていたらしい。
さらに、彼女には家族愛と友達愛はあるが、潔癖気味でキスは嫌、肉欲は皆無で、子供も欲しくないという。
互いの利害が一致しての結婚であった。
相棒にとって、僕に迷惑がかかるであろう事も懸念事項だったろう。彼に結婚の勇気ときっかけを与えるために、僕は良き見本を見せた。
電撃発表、その後のファンの反応、するべき振る舞い、チケットの売れ行き等々。
結果、大成功だったと思う。
そして、彼は決意をして。
無事、今日に至るわけだ。
僕はポロリと涙をこぼした。
妻が、優しい顔でこちらを見つめている。
「辛いよね」
「うん。でも、僕が選んだ事だから」
彼の役に立てた事が嬉しい。
彼が幸せになってくれたら嬉しい。
そんな彼がずっと僕の相棒であればいい。
僕は、どんな形であれ、君さえずっと隣にいてくれたら、他には何もいらないのだから。
泣き続ける僕の側で、男前の格好良い妻が寄り添って、ずっと背中をさすってくれた。
僕の秘密を知り、協力してくれた妻。
最高の友を得たと思う。
4/20/2026, 12:49:18 PM