今日見た夢に脚色した話
私は気付けば、どこかの村の田畑に立っていた。人は多く、休憩していたり、雑草刈りをしていたりする。私はまだ彼らに気づかれていない。それは何らか可視性が悪いのか、“ご都合主義”かそのいずれであろう。
私はゆっくり歩き出す。慎重に、見つからないように。回り道をとり、誰の目にも触れないように。
この人たちを殺さねばならない。できれば気づかれぬように、できれば一瞬で。
私はまず、近くにいた農作業をする男を殺そうと考える。歩み出す一歩は慎重だが躊躇いなく。殺人への忌避は不思議と全く胸になく、それはクエストに似ている。ゲームのクエストで、「人を全員気付かれぬうちに殺さねばならない」かのように、心が凪いでいる。
空は昏く、だけれどひどく重苦しい訳ではない。明るい訳ではない、程度に暗い。その暑いのか寒いのか分からない中、農夫は雑草刈りに夢中になっている。
それに後ろから忍び寄り、手をかけた————
一人目が無事に殺し終わり、私は次の標的を、近くで休んでいる女にした。その女は地面が段々になったところで他の三人の仲間と一息吐いている。
ぼうっと空を眺め、休む様子の女に私は近づく。やはりゆったりとした足取り。
空は大して面白いこともないのに、何が楽しいのだろうか?これは夢の中で感じなかった感想であるが、起きてみれば疑問であった。一緒に休む仲間も揃い揃って、惚けたように空を見つめているのだ。
しかし私はそのようなことをその時は考えない。私はその仲間たちの元へと歩み寄り一人に手をかけようとする。
しかし、その近くにいた仲間の目が驚きに見開かれる。ああ、気づかれた!よく考えれば当然の話なのだけど。
その口が言葉を紡ぐ前に、私は視界が暗転し、次の瞬間何事も無かったかのように、最初に立っていたところに立っていた。
先ほど殺したはずの農夫は依然として雑草を刈り取っている。背に負った大きいカゴの中に雑草を入れて、時たま汗を拭う。
私に気づいた女とその仲間たちは、また空を眺めていた。何を考える様子もなく。
動揺せず、私は歩き出した。失敗したらやり直せるなんて、やはりクエストに似ている。
私は幾度かその出戻りを経験した。幾度か私は初期位置に戻り、死人は立ち消え、のどかな田園に変わる。
私は舌打ちも、愚痴も、そもそも怒りすら抱かなかった。戻れば私は躊躇いなくまた足を進める。
そして何度目かの試行の時、先に述べた空を見る女を殺す時、ふと私は手を横に動かしてみた。サッと、切るように。
女は死んだ。
私は少し動揺し、仲間に気づかれ、やはり初期位置に戻される。
己の手をまじまじ眺めてから、私は再び歩き始める。また慎重に、回り込むように。
しかし、次の殺すという段取りになれば話は違う。私は再び手を切るように動かしてみた。
死んだ。
私はやはり少し動揺して立ち止まったが、次は近くに誰もおらず、誰にも気づかれなかった。
私は喜び勇んだ!
次の標的を再びあの休憩する女に変えて、私は慎重さを欠いた足取りで彼女に近づいた。
彼女とその仲間は私の雑な足取りに気付き、こちらを向きかけていたが、それを「黙らせる」。それはあまりに簡単な動作である。手を横に動かすだけ。
私はそのあまりの簡単さに打ち震え、感動し、喜びを隠せず、早速村の全ての人間を殺しにかかった。
気づかれる前に手を動かす。それで大体全てが解決する。
結局ほとんど全員が死んでしまったのだけれど、私はただひとり、一人の男の腕に抱えられた赤子だけを殺さなかった。男から命乞いを受けた訳でもないし、赤子は寝ていて泣き声ひとつ上げなかった。
私はその赤子を見つめて、やはり殺さないことに決める。
そこで、その夢は終わった。
なんか全能感あって楽しかった。
4/4/2024, 10:49:28 PM