非情な人間こそが上に行くものだと信じてここまで来た。
出世のためなら何だって利用して切り捨てる冷徹さがこの国では好まれると教えられてきた。現に俺はたった一人の妹を交渉の切り札に使ってまでこの地位を得た。
だが快進撃がそう長く続くわけもない。
後日、妹を下衆な金持ち相手に売ったことが明るみとなり、その代償として、今度は俺自身が闇オークションに出品されることになった。
俺は顔がそこそこ知れていたから、その日出品された商品の中では最も高額な値から始まった。
最初は周囲の雰囲気を確かめながら、金額がじわじわと上がっていく。けれどだんだん白熱して金額が吊り上がり、いよいよ終了の合図が鳴らされようとしたとき突然、桁違いの金がぽんと落とされた。表示されている画面の桁数にざわめく周囲。
俺を競り落としたのは、俺を憎んでも憎みきれないはずの妹だった。
人道支援団体の手により監禁から救われていたことは知っていた。だが自分を陥れた俺を落札する妹の心も、そもそもどうやってそんな大金を工面したのかもわけがわからなかった。
オークション参加者の中にはえげつない嗜好の持ち主と評判の金持ち連中もいた。俺に大枚を叩かずにいれば、妹が一瞬でも味わわされた屈辱を晴らせただろうに。
満身創痍の身体で「なぜ」と尋ねる。しばらくまともな声を発さなかった喉は俺の言うことを聞かなかった。自然、短い問いかけになる。問われた妹は自分の行動が分からないように首を傾げた。
「放っとけばよかったんだけど」
聞けば俺を買った金は、妹が離婚した夫と住んでいた家と両親の遺産の実家、その二つの土地を売って作った金だったらしい。それも全部俺を落札するのに使ったと言う。ということは、俺はもちろん妹もこれから先無一文の、しかも宿なしということになる。
妹は首輪の締め付けをさらに強めた。
「許したわけじゃないから。そこだけは勘違いしないでね。あくまでも私に買われた奴隷なんだから」
兄妹二人きりの生活。しばらくは屋根なしの生活が続くだろうが、それも悪くない。
夢想しながら、俺は想像以上の力強さに半分意識を飛ばしながら「ああ、わかってるよ」と囁いた。
4/30/2025, 4:17:25 AM