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「どうして? なぜ?」

 問いかける表情は、もはや怯えるようだった。
 信じられないというように、青醒めて、震えて、後退りをして、拳を握りしめていた。

「いまお前は、何をしたのか分かっているのか。
 最大で唯一の機会をふいにしたんだぞ、幸福になる機会を!」

 そうかもしれなかった。
 たぶん幻ではなかった。
 失ったものがそこにあって、愛していたものたちが笑っていて、豊かで苦しみはなく、なにひとつ欠けているものはなく、希求していたもの全てがそこにあった。
 きっとそのまま死んでいれば、おれは誰よりもしあわせな男であったに違いない。

 壊れてゆく、毀れてゆく。
 失われてゆく、還ってこない。

 けれど、それでよかった。
 何度でも、きっとこの決断をする。

 幸せに背を向けて、おれは一歩足を踏み出した。

#幸せに

3/31/2023, 7:24:30 PM