「春って嫌い」
朝食後、ゴロリとソファに転がった恋人はテレビをつけるなり言った。ちょうど朝のニュースで春本番と見出しがある。
「意外だな。お前お花見とか騒ぐタイプだろ。去年だってお前が言い出しっぺでオレが弁当こさえることになったんだろうが」
あのときのことは思い出したくもない。低血圧だっていうのに早朝から起こされて、しかも恋人があちこちに誘いをかけていたもんだからその人数分も作るハメになってしまった。そのくせ、元凶は作った側からつまみ食いしていた。(まあ、そのあと対価は頂いたのだが)
それと正直にいうと恋人との初めての花見は二人きりで過ごしたかった。何をセンチメンタルなこと言ってんだと思うかもしれないがこいつと付き合うまでに至った年月と経緯を想うと致し方がないだろう。
「だって、花見ても腹膨れねえじゃん」
「お前の親泣くぞ」
こいつに情緒というものを叩き込んでやりたい。
「それに、春って始まりだけじゃなくて終わりも春なんだぜ?卒業式とか。そんなの寂しいじゃん」
ああ、よかったそう感じるだけの心はあったのか。
「じゃあ、お前はどうなんだよー」
そうだな。すっと視線を逸らすと恋人は首を傾げた。
「オレは好きだぞ」
「え、なんで?さっき花見嫌だーって言ってたじゃん」
「弁当作るのが嫌なんだよ。しかも朝っぱらから」
抱き寄せると、ビクッと腕の中の身体が跳ねた。だが、春を迎えたとはいえまだまだ肌寒い。寒いのが苦手な恋人は渋々こちらに擦り寄る。そう言ったところが、猫みたいで堪らない。まあ、こいつの図体的に猫とは程遠いが。
「じゃあ、あれか...色男は春に何か特別なお楽しみでもあるわけ?」
「まあな」
すーっと服の隙間から撫で上げるとぴしゃりと何かを察したように固まる。
「あったかくなると露出が増えていいとは思わないか?」
「......やっぱ春って嫌いだわー」
そそくさと逃げようとした恋人をとっ捕まえソファに引き戻す。
恋人は終わりと始まりがある春が寂しいと言ったが、それでいいではないか。
芽吹きのときがくれば花も草木も何度だって芽を出すのだから。
お題【芽吹きのとき】
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時間が迫ってたのでここまで。
3/2/2025, 1:09:35 AM