羊飼いの夢の跡

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 料理をするのは意外と力がいる。捏ねるのもそうだし、切るのもそう、混ぜるのもそうだ。世の中の料理人を見ればわかる。特に男性料理人の屈強な体!ボディービルダーと見紛う料理人なんている。
「ふうんー!!!」
「ママ!頑張って!!!」
 そんなことを考えて意識を彼方に飛ばしつつ、今一生懸命切っているのはかぼちゃだ。10月にある、子供がワクワクするイベントといえばハロウィン。
 例に漏れずに我が家の娘もハロウィンに感化されたらしい。今日は小学校から帰ってくるなり、ランドセルを放ってキッチンへとかけてきた。
「ママ!かぼちゃプリン作ろう!」
 手には可愛らしい装飾が施されたチラシ。
 どこかでもらってきたのか、ポップな字体で『簡単カボチャプリンを作ろう!』と書いてある。中身を見れば、主婦から見れば簡単でも、子供から見たらちっとも簡単ではない。
 それでもどうしても作りたいのだろう。娘はぷにぷになほっぺたをピンク色にして、鼻息荒くふんふん言っている。目もやる気だ。ここで否定してしまえば、待っているのはギャン泣きだろう。
「よーし、わかった。一緒に作ろっか!」
「うん!」
 そうして今に至ると言うわけだ。
「ママ、ちょっと切れてるよ!」
 横で応援してくれる娘の頭を撫でて、もう一度包丁を握る。電子レンジを使って……とかいろいろ試したものの大きすぎてうまくいかず、もう結局頼れるのは己の腕力のみ。
「そういえば、どうしてかぼちゃプリン作りたいの?かぼちゃはそんなに好きじゃないよね」
 包丁の位置を探りつつ、ふと気になったことを聞いてみた。すると思いの外返答が返ってこない。
 不思議に思って娘の方を見れば、娘はモジモジと指をこねてやや俯いている。
「……そうたくんが、かぼちゃプリン好きだから、まながつくったの食べたいって」
 あらあらまあまあ。
 ちょっと早い春の到来に、思わず口元に手が伸びる。
「なら、とびっきり美味しいの作らないとね」
「うん!」
 ようやく位置が決まった包丁を握って、今までよりも力を込める。
「ふん!」
「われたー!!!」
 嬉しそうな歓声と共に、かぼちゃが綺麗に割れる。切った自分よりも大喜びする娘を見て、思わず笑みが溢れた。

10/7/2024, 10:21:23 AM