300字小説
『心』の花園
僕は『心』の花園の庭師。彼女の『心』が生み出す様々な感情の花の手入れをしている。
枯れ果てた『哀しみ』の花の株を丁寧に抜き取り、赤黒く咲く『嫉妬』の花の棘だらけの蔓を鋏で切り戻す。幼い頃は素直な『喜び』や『悲しみ』から咲いた、愛らしいお花畑が広がっていた花壇も、彼女が『恋』を知ってから、ずいぶんと乱れ、荒れることが多くなった。
晴れていた空が曇り、今にも雨が降り出しそうになってくる。今日は彼とのデートのはず。あいまいな空に思わず溜息を吐きつつ、傘をさす。ぽつりぽつりと雨が降ってくる。
「あれ、温かい」
初めて降った『愛』の雨。花壇に大きな双葉が開き、太い茎を伸ばした後、見たこともない美しい花が咲いた。
お題「あいまいな空」
6/14/2024, 12:44:58 PM