NoName

Open App

「1年後」

「またね」
そう言って新幹線のホームで見送った。あれから頑張って、とうとう就職だ。就活で東京に行った時、ちゃんとお付き合いを始めた。高校の卒業式、もっと勇気を出せばよかった。東京と地元では無理だって、最初からあきらめてた。

そうだよ、高校の時だってチャンスはあったんだ。生物部で学校内の植物図鑑を作ろうと放課後は白衣を着て写真を撮っていた。人気のない校舎の裏で君は踊っていた。その姿があまりにきれいで思わずシャッターを切った。びっくりした君が近づいて来た時、怒られると思ったんだ。でも君は怒らなかった。

「見せて」と言われ一緒にカメラのモニターをのぞき込んだ。あまりに近くて心臓の音が聞こえやしないかとびくびくしていたよ。君の写真はきれいだった。のびやかに体を反らし手を伸ばして太陽をつかもうとしているみたいだ。

「文化祭で踊るの」
「そうなの?僕は文化祭でこの学校の植物図鑑を展示するんだ」

植物の写真を見せた。古い学校だから木がたくさんある。それ以外に雑草も花壇の花も。

「面白そう。見に行くね!そうだ、そのカメラ動画も撮れるの?」
「うん、撮れるよ」
「じゃあ、お願い。踊るところ撮ってもらえる?どんなふうに見えるか確認したいの。明日、みんなで合わせるんだけど、その時に。いい?」

そんなことがあっていいのか?女子とこんなに長く話すのは初めてだ。しかも明日は他の人も一緒だ。文化祭のステージでダンスを披露するような女子とはそもそも縁が無い。

翌日、すぐに見れるようにパソコンも用意して約束の時間に体育館に行った。ダンスは5人のグループで、聞いたこともない曲だけどみんなそろっていて素晴らしかった。データを送ってほしいと言われ、彼女のアドレスを教えてもらった。

文化祭まで何度か撮った。そのたびにうまくなる。僕まで参加できたみたいでうれしかった。

それから何度も好きって伝えるチャンスはあったんだ。でも勇気がなかった。東京の大学に行くと聞いてからは完全にあきらめてた。

「誕生日おめでとう」

東京駅のホームまで迎えに来てくれた君を抱きしめた。誰に見られたってかまうもんか。もう君は僕の恋人。あれからちょうど1年後だ。

6/24/2024, 11:12:09 AM