猫宮さと

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《終点》

運命とは時に些細な切っ掛けから流れを変え、思わぬところへ世界を辿り着かせる。

それは、ほんの少し昔のこと。
ある美しい若者は、恋をしていた。
相手は、若者の上役。仕事はよく出来、人を見る目があり平和を愛し、何より美しいものが大好きだった。
二人は想いを通わせて、若者は職務中も上役の傍に置かれ、その仕事の補佐をしていた。

上役は、平和のために国の頂に立ちたいと願っていた。
若者は、そんな愛する上役の役に立ちたいと誠心誠意尽くした。
上役の必要を先読みし、環境を心地好く整える。その部下も手厚く遇し、上役の頼みが叶えられるよう手助けをする。
そして上役が心に住まう伝説の不思議な存在と対話するなら、その場を離れ静かに集中出来る環境を保つ。

若者は、心の底から上役を愛し、信じていた。
その絆は遠い未来、互いの命が果てるまで穏やかに続くものと。

ところが、それは突然終わりを告げた。
気持ちのすれ違い、などではなかった。

上役が自らの野望を遂げ国を掌握しようかというその時、若者に言い放ったのだ。

お前は、もう用済みだ。
これから醜く老いてゆくだけのお前を、傍に置いておくつもりはない、と。

そう。上役の全てが嘘だったのだ。

他者を思いやり、平和を愛する心も。
伝説の不思議な存在が心にいることも。

若者を、心から愛しているということも。

全てが嘘で塗り固められていた。

若者の想いは踏み躙られ、粉々に砕け散った。
上役への愛が全てであった若者の心は、ぽっかりと空洞が開いた。
希望の光一つない、漆黒の空洞が。
何故こんなことになったのか。何がいけなかったのか。
自分が若く老いぬ身であれば、捨てられることはなかったのか。
自分は今、何処へ向かえばいいのか。
漆黒の中では、その答えを探す事すら叶わなかった。

後に上役はある者らに討ち取られ、悪しきとは言え国はその頂に立つ者を失った。
その時、若者に声が掛かった。

次の皇帝はあなたしかいない、と。

若者は、思った。
自分を嘲笑ったかの人が求めてやまなかった全てを、この手に納めよう。
そう。若く老いぬ美しささえも。
そのためなら、どんな手段も厭わない。
己の辿り着くべき先は、ここにあったのだ。

若者の心の漆黒は、闇に見出された。
古の封印より自らの復活を企てる、悍ましい闇に。
長きに渡る孤独と苦痛を晴らさんとする、闇に染まりし悲しき神々の意思に。

その少し未来となった今。
その皇帝も、肥大した自らの闇と共に葬られた。
少女は、祈る。
その魂に、救いがありますように。
闇が晴れ、自らの行いを正しく省みることで真に報われ、次の幸福な生へと辿り着けますように。

8/11/2024, 4:58:38 AM