【きっと明日も】
冷ややかな骨壷を机の上へと置いた。大きな背中をしていた君が、こんな小さな壺の中に収まっている。そう思うと妙に現実味がなかった。
君がいた痕跡が随所に残っているリビング。君のお気に入りのラグマット、君と二人で買いに行ったお揃いのマグカップ。片隅に鎮座する掃除機なんて家事の苦手な私があまり使わないものだから、ほとんど君専用みたいになっていた。
寂しい。君のいない家はしんと静まり返って、寂しくて切なくて仕方がない。ああ、それなのにどうしてタブレットに向かう私の手は、握ったペンを動かすことをやめてくれないのだろう。
描きたい。描き続けたい。その欲求が際限なく湧き上がる。今日見た風景、今日抱いた想い、それら全てをキャンバスに叩きつけろと本能が私の手を突き動かすのだ。
(ああ、本当に。私は最低だ)
君の死を純粋に悼み、悲嘆に浸ることすらできない。きっと明日も明後日も、君がいない毎日の中でも私は何一つ変わることなく絵を描き続けるのだろう。
(ごめんね)
目の前のキャンバスに広がっていく鮮やかな色彩をどこか客観的に見つめる自分の理性が囁いた君への謝罪の声すらも、描きたいと叫ぶ本能がすぐに覆い尽くし、私の意識からは完全に消え去った。
9/30/2023, 10:02:30 PM