きらめき
…才能。
欲しい。手に届かない。
なんで、あの子がは苦労せず初めてだというのにあんなにできるの?
なんで、僕は沢山の時間と努力をかけてずっと頑張ってるのにあの子に負けるの?
あの子みたいになりたい。
あの子になりたい。
あの子の才能が欲しい。
世界は本当に意地悪。
僕の本気は、君の適当に届きもしない。
こんなに頑張っているのに。
なんであの子はきらめいているの…?
才能の差。
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「…あ、」
僕が初めて見たあの子。
「絵描いてるの?」
美術室の鍵をぶら下げて、制服のまま来た僕を、あの子はじっと見つめた。
床に散らばっているぐちゃぐちゃにされた紙。
「そうだけど」
クラスメイトに囲まれながら話すあの子と同一人物か疑うほど冷たかった。
「もうそろそろ下校時間だけど、もうちょっとあるから描いとく?」
あの子は目をそらした。
「いい。もういい」
「そう……」
僕は床に乱暴に投げ捨てられた紙を手に取る。
「あっ、待って!」
その声とともに、紙を開いてしまう。
「岡崎せんせーだ」
僕に唯一、優しく接してくれる先生。
「好きなの?岡崎せんせー」
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「岡崎せんせーだ」
“完璧”がふわっと笑う。あ、完璧って笑うんだ…。
夕日の光が完璧の顔を照らしている。
「好きなの?岡崎せんせー」
「そうだったね」
「え?……」
「何その顔。失恋じゃないから」
「あーそうなんだ」
ばかにしてるのかと思ったが、完璧はほっとしたような表情をした。
「あたしってそんなに失恋してそう?」
「分かんない…」
なんだそれ。
「……岡崎先生ねー、好きだったの。今日まで」
「えっ」
「岡崎先生が嫌いになったわけじゃないのよ?」
「だよね!」
完璧は嬉しそうに声を弾ます。
「もっと魅力的な人見つけちゃって」
「岡崎せんせーより…?いないよそんな人」
「いるよ」
あたしの目の前にね。
「とってもきらめいてる人」
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数年後、少し喧嘩しながらも笑ってじゃれ合っている夫婦が歩いていた。女性の方のお腹には、未来の命が託されている。
これが本当の“きらめき”なのかもしれない。
9/4/2024, 2:54:12 PM