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『いつまでも捨てられないもの』

二軒先のSさんが、ゴミ捨て場に立ち尽くしていた。確か今週の掃除当番だ。

なんでも、指定の袋ではない真っ黒なビニール袋が捨てられていたそうな。
困り顔で指差す先には、なるほど黒いビニール袋があった。

次のゴミ収集日までどこかに置いておこうにも、中身を指定のゴミ袋に移し替えようにも、重たくて持ち上げられないらしい。
試しに持ち上げてみようとしたが、Sさんの言う通りやけに重たく、水分を含んだようなグニャリとした感触があった。

どうしたものかと思案していると、別のご近所さんが通りがかり、「Mさんが捨てていた」と言う。

それならとMさんの家を訪ねたが、誰も出てこなかった。

数日前、仕事帰りにMさんと挨拶がてら雑談をした時、「ずっと捨てられずにいたものを捨てる決心がついた」と言っていた。
「思い切りましたね」と言うと、「ええ、ようやく」と小さく頷いていた。

仕方がないので、Mさんが帰ってくるまでそのままにしておくことになり、私たちは解散した。

おそらく、Mさんはもう帰ってこないだろう。

さっき試しに持ち上げた時、逆光にほんの微かにビニールが透けた。
トリコロールに塗られた爪は、数日前「オリンピックにちなんで」とMさんが見せてくれたのと同じものだ。

だとすると、Mさんがビニール袋を捨てられるはずがない。

あのご近所さんは、なぜわざわざMさんの名前を出したのだろうか。
長年の友人だと聞いていたのだが。

8/18/2024, 7:26:56 AM