緋鳥

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 こんなにもあっさりと別れが来るとは思わなかった。
 一番の友達が両親の転勤により急に転校するなんて漫画やドラマだけの話でまさか身近に起きるなんて思わなかった。

「急だね」
「急なんだよ」

 いつものコンビニに寄って、ジュースを買って駄弁るのも今日が最後だ。
 小学校からの友達である彼女と話すのは今日が最後になる。もちろん、伝えられてから猶予は多少あり、思い出も沢山作ったが、それでも別れとなると寂しい。
 隣の彼女を見る。いつも甘いミルクティーを買っている彼女は変わらない。だが、明日にはもういない。いつものコーヒーを飲む。変わらない味がした。

「もうちょっとこの街にいたかった」
「向こう、何もないの?」
「コンビニもねぇ。映画館もねぇ。もちろんおしゃれなお店もねぇ」
「どこの秘境に行くの?」

 軽口に彼女は笑う。彼女の行く先はもうすでに知っている。確かに田舎だが、夏には泳ぐのに適した綺麗な川が流れていたり、すぐ近所には惣菜が美味しいらしいと口コミサイトに書かれていたそこそこ大きな地元スーパーがある。少し電車を行けば、大きな街に出る。何よりWi-Fiはしっかり通っている。もうテレビもない電話もない田舎はもうどこにもないかもしれない。

 最後の日だと言うのに、いつもと同じ他愛のない話をしていると、帰る時間になった。
 ゴミをきちんと捨て、自転車に乗る。
 ここから別れて、それぞれに帰る。これも最後。
 自転車に乗った彼女が振り返る。
 思わず、別れの言葉が出そうになったが、それはないと、飲み込んだ。

 さよならなんて、言わない。
 だって私達は繋がっているから。

「またLINEしようね!」
「向こう行っても電話するねー!」

 スマホにより、私達はどんなに距離が離れていても瞬時に連絡が取り合える。また交通手段を駆使すればいつでも会える。今生の別れではないのだ。また会える。いつでも声が聞ける。いつでも話せる。
 
 さよならではなく、またね。と。

 私達は挨拶をして別れた。
 寂しさなどは浮かぶ暇などなかった

12/3/2024, 10:41:17 AM