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正直

その昔 正直なお爺さんとお婆さんがおりました。二人は大変正直者で真面目で小働きがよく出来て、そして明るくよく喋りよく眠りよく通る大きな声をしていました。そして清貧であり何故だか村人に疎まれていました。

お爺さんは街に買い出しに行きましたら、道すがらどこぞの娘さんは端なくどこぞの婿殿となかよく話しながら親しげに歩いていたと見たままを正直に帰宅するとお婆さんによく通る声で話しながら荷をおろしているのでした。

お婆さんは次の日川へ洗濯に行き、そこで出会った若奥さんにあの娘さんのことを正直に伝えました。そして「あなた、お気をつけなさいよ」と優しくその若奥さんの背を撫でるのでした。

寝耳に水の若奥さんは疑心暗鬼になり帰宅後直ぐに夫を問い詰め正直にお婆さんから聞いたことを打ち明け泣き腫らした目で夫に詰め寄り夫を責めました。

面食らった夫は、たじろぎましたが事実無根の言いがかりと妻に言いましたが若い妻の嫉妬と疑心暗鬼は収まらず、とうとう妻はその娘さんの家に乗り込んでしまったのでした。

娘さんの父親は、こう言いました。

「嘘でも真でも、こんな噂を流されてお前は傷物にされたのだ、自分の軽率な振る舞いを自省するまで外を歩くな」と言い娘さんを座敷牢に閉じ込めたのです。若い妻は満足した様子で帰って行ました。

娘さんの母親は大層心を痛めましたが、これだけの騒ぎになれば父親の言う通り狭い街には風邪より早く広がります。母親は娘にこう言いました。

「お父さんは、あなたを守ろうとして言ったのです 人の噂も75日暫くお父さんの言う通りにしていなさい」と、けれど娘さんは酷く傷つきました、何故なら彼女はあの旦那さんを好きだったからです、自分心に嘘がつけず仕草表情に正直に出ていたのかと自分を見つめて「しのぶれど 色にでにけり わが恋は ものや思ふと人の問ふまで…」とはこのようなことかと秘めた初恋が正直さに掻き消されたことを嘆き悲しみ床臥しそのまま飲まず食わずの日が続き若い命を散らせてしまわれたのでした。

娘さんの両親は悲しみ
その様子を見ていた街の人たちは、今度は正直なお爺さんお婆さんを私刑の断頭台に上げる裁判を行うのでした。

正直者の集まる街のお話しでした。

2024年6月2日

心幸




6/2/2024, 4:48:09 PM