白糸馨月

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お題『向かい合わせ』

 鏡と向かい合わせになっても自分の姿をみることはできない。私は吸血鬼でそういう風に体が作られている。人間と同化できる特殊な薬を使えば映ることができるので、今のところ学校の友達にバレていない。だが、今問題が発生している。
 朝飲んだ薬の効果がきれかけている夕方に鏡に映っている自分の姿が薄れてきている状態の時にクラスの男子に見られてしまった。
 まずいと思ってとっさに逃げようとしたが、男子に「待って」と呼びとめられる。とくにおどろいた様子がないことが逆に不思議だ。
「もしかしてとは思ってたけど、お前、やっぱヴァンパイアだったか」
 しかも正体を言い当てられ、私は思わず警戒する。
 どうしよう。こいつの血を吸って記憶を改ざんさせるか。
 私は構えをとる。だが、彼は
「警戒しなくていい、俺はダンピールだから」
「ダンピール……」
 なら、なおさら警戒を強めるしかない。私は戦闘態勢に入り、彼に飛びかかろうとした。が、腕を掴まれてとめられる。
「いきなり襲いかかんな。俺はヴァンパイアハンターじゃねぇから」
「じゃあ、なにが目的?」
「どうもしねぇよ。ただ……」
 彼は視線をあさっての方向に向ける。ダンピールは、今は数が少なくなったとはいえヴァンパイアハンターを生業にしている者が多いので警戒対象だ。だから油断してはいけない。
 だけど
「なんか、俺以外にも人間じゃない存在がいたんだなって思ったら、すごく安心した」
 そう彼が照れくさそうに笑った。その笑顔に拍子抜けして私はとっさに手をはなす。
「私を殺さないの?」
「嫌だよ、そもそも人を殺したくない」
「でも、私のこと」
「誰にも言わねぇよ。俺の正体だって、お前しか知らないんだし」
 そう言って、彼はきびすを返して、「じゃ、また明日学校で」と手をあげて軽く振った。
 窓からさす西日が意外ときつくて思わず夏でも着ている長袖パーカーのフードをかぶる。
「ダンピールのくせに、へんなひと」
 私はさっきのクラスメイトに思いを馳せながら、日光を避けるよう早めに帰路についた。

8/26/2024, 3:58:21 AM