岐路(未完)
今思えば、あの選択が人生の岐路だったのだろう。
バタフライエフェクト、というものがある。蝶の羽ばたきひとつが嵐を生むような、小さな選択の結果が更なる結果を呼び、大きな結果に繋がってしまうような。
僕もあの日、小さな選択をした。正確には、いつも通っている古本屋で適当に本を手に取った。別に隣の本でも構わなかったし、暇が潰せる未読の本なら何でもよかった。しかし僕は中身も見ずにその本を選択してしまった。次の日、その本は教室で読むという選択をされ、鞄から取り出され、そして偶然近くにいた彼女に一瞥された。全てが重なり合ったその瞬間。
「その本って…!ねぇ、ちょっと見せて!」
面倒なことになった、と思った。しかし僕は反射的に頷き、本を手渡した。人との会話が苦手な僕は、既にこの本を選んだことを後悔し始めていた。
「やっぱり…先生の…」
その少しくたびれた古本をパラパラと見つめる彼女は、なにかブツブツと呟いている。彼女は確か…同じクラスの冬森さん、だったような。次の瞬間、彼女はすごい剣幕で詰め寄ってきた。
「ねぇ、あんたどこでこれを?」
「え、えっと、近所の古本屋で適当に…」
「…放課後、私をそこまで案内しなさい。これは命令よ。校門前で待ってるから。」
「えっ、あっ、はい…?」
「…絶対忘れるんじゃないわよ…あぁもう、なんであんたが…」
…なにか呟きながら去っていってしまった。残された僕は呆然と本を見つめながら、作者名が書かれていないことに今更気づいたのだった。
ーーー
「これは天野先生の作品なの」
「アマノセンセイ…?」
「先生はこの世で1番…いえ、この宇宙で1番の作家なの。その中でもこれは未発表の遺作なのよ」
校門前で待っていた冬森さんはそう切り出した。
「でもこの本、作者名が…それにどうして遺作なんて知っているんですか。そもそも内容だって支離滅裂で、素晴らしいようには見えない…」
「…まぁ、急にこんな話を聞いたら普通そうなるわね。内容だって普通には読めないし…」
古本屋に向かいながら話し続ける。
「これはね、小説の形をとっているけれど、本質は鍵に近い。先生は小説という形式を利用して宇宙の鍵を執筆した。私は先生の神秘の狂信者の一人…理解されたいとは思わないわ。」
「えっ…と…?」
「ここの道ってどっち」
「あっ左です。すぐそこです」
見慣れた古本屋に到着し、中に入る。冬森さんは僕から例の本を奪い取り、ページをめくりながら店内の探索を始めた。僕も後ろについていく。
しばらく歩いた頃。
「痛ぁっ!?」
「だ、大丈夫ですか」
「ぐっ…み、みつけた、ついに見つけた!」
ページをめくっていた彼女の手には数滴の血が垂れていて、もう1冊の本を掴んでいた。振り返った彼女の頬には大きな傷があり、ぎょっとする。
「これでやっと…証明できる!」
冬森さんはそう言い残し、カウンターで本を買うと足早に出ていってしまった。2冊の本と共に。
またもや残された僕は先程の会話を反芻した。しばらく思考した末に思いついた考えとしては、あの本は何かしらのプログラミング言語に近いのではないかということ。それらは宇宙に何かしらの影響を与える可能性があるのではないかということ。冬森さんはそれを利用してなにかをしたいのではないかということ…
結局上手く理解できなかった僕は、非日常への興味と恐怖を抱きつつ帰路についたのだった。
ーーー
6/8/2024, 1:40:16 PM