いろ

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【秋恋】

 秋になると喫茶店のメニュー表に追加されるモンブラン。いろいろなお店のものを食べたけれど、やっぱりこの喫茶店のものが私にとっては格別だ。カウンター席の一番端っこで舌鼓を打っていれば、カタンと音を立てて小さなお皿が置かれた。
「はい。いつも来てくれるからサービスね」
「え、良いんですか? ありがとうございます!」
 にこやかに微笑んだマスターはごゆっくりとだけ告げて仕込みに戻っていく。お皿の上ではクッキーが三枚、香ばしい匂いを立てていた。
 そっか、いつも来てること覚えていてくれたんだ。そう思うと胸が弾んだ。
 きっと貴方は忘れているだろう。学校帰りに秋の大雨に降られて困っていた時、通りがかっただけの貴方がビニール傘をコンビニで買ってきて渡してくれたこと。その二年後にたまたま訪れた喫茶店で貴方に再会した時は運命かと思ったけれど、口に出して確認する勇気も持てなかった。
 貴方に出会ったのも秋なら、貴方と再会したのも秋。そうして貴方の作るお菓子の中で私が一番好きなのは、秋限定のモンブラン。私のひそやかな初恋は、いつだって秋の色をしている。
 いつか貴方に、この想いを告げられたら良い。そんな風に思いながら、私はこの世の何よりも美味しいモンブランを口に運んだ。

9/21/2023, 11:13:12 PM