池上さゆり

Open App

 隣の家に住む幼馴染とは幼稚園からの付き合いだ。進学した高校も一緒で付き合っているわけでもないのに、毎日一緒に登校している。
 気象予報士になりたくて、中学の時から毎回受験している彼女は、覚えた知識を毎日披露している。そのせいでクラスメイトからは嫌われていた。そのせいか、僕しか話を聞いてくれる人がいなくて二人の時は天候の話や規定、法則について聞かされる。おかげさまで、覚えるつもりのない余計な知識がたくさん身についた。
「ねぇ知ってる? スキー場の運営者がゲレンデ付近の気温をホームページに載せようと温度計を設置する場合は、そのことについて気象庁長官に届出を出さなきゃいけないんだって。あぁ、あとね梅雨前線が近づいてきてるから折り畳み傘の準備始めておいた方がいいよ」
 だけど、その話に僕は興味を持てなかった。天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいこととは、もっと君の内面について知りたいんだ。だけど、なにを聞いてもはぐらかされるばかり。これだけ長く一緒にいるというのに。、なにも知らない。
 片思いがつらくなり始めた頃、彼女からある報告を受けた。
「昨日ね、告白されてさ付き合うことになっちゃった」
 突然のことに、頭を殴られたような衝撃が走った。なんでまた急にと訊いてみた。
「お試しでもいいからって言われて、なんとなく断りづらくってさ」
 そんな軽い感じなんだ。僕の今までの片思いはなんだったのだろう。そんな簡単に付き合えるのならもっと早く俺の方から告白しておくべきだった。もう後悔しても遅い。
 次の日からは一緒に帰ることも、彼女から天気の話を聞くこともなくなった。

5/31/2023, 1:12:34 PM