秋茜

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“8月、君に会いたい”

 話す気も失せるほどの日差し。気温が高すぎるせいか、もはや蝉の鳴く声も聞こえず、耳の詰まるような静寂だけがそこに存在した。見えない何かに包まれて、削られて、そのうち命すら落としてしまいそうな暑さ。

 ――それでも。

「あっちいなあ」

 軽い調子で沈黙を破って、マイペースに額の汗を拭う。君がいるから、夏は嫌いじゃなかった。半袖のワイシャツをパタパタと動かして、ちらりとこちらを見つめる。

「大丈夫か?」

 ぶっきらぼうな、その優しさが好きだった。憎たらしいくらいの太陽も、君が背負っていれば絵になると感動するほどだった。

「ほら」

 買ったばかりの、よく冷えたスポーツ飲料を投げて寄越す。邪気のない笑顔は、日光なんかより、ずっと。

 ――8月、君に会いたい。

8/2/2025, 1:39:21 AM