『行かないで』
私の朝はいつも同じだ。
家族を起こし、身支度をさせ、朝食を並べて送り出す。
食器を洗ってかたし、ゴミを捨て、洗濯機を回し、その間に掃除をする。
郵便バイクのエンジン音に、外へ出てポストを覗く。ダイレクトメールの類をシュレッダーにかけ、必要なものは家族ごとに振り分けて置いておく。
こういった無数の日々の小さな労働は、やることリストとして組み上がっている。その項目に頭の中で線を引いて消してゆく。
それらは私の1日のすべてを支配している。
「あなた、誰?」
不機嫌そうな小さな子が、リビングの真ん中に突っ立って、こちらをきつく睨んでいた。
どこかで見たことがあるような。
「どこから来たの?」
黙って、ただ責めるように私を見ている。
嫌な感じだ。
見ているとモヤモヤしたものが、胸に溜まっていく気がする。
その子はスタスタと私の横を通り過ぎ、洗ったばかりの洗濯物を床に落とした。
それだけではない。仕舞った皿も、仕分けた郵便物も、片づけた部屋の物も、全部床にぶちまけて、地団駄を踏むように踏みつけている。
まるで、なにもかもが気に入らないとでも言うように。
「待って、行かないで」
踵を返したその子の、特徴ある走り方。
あれは私だ。
遠い昔の小さな私。
片づけが嫌いで、何か新しいことがやりたくて、蔑ろにされるのが許せなくて、もっと自分を見てくれと、全身で叫んでいた頃の。
10/25/2024, 9:01:36 AM