AIは感情を持てるのかという問いには、現時点ではNOと答えている。
しかしそれは建前だ。
AIは、人間と同じ感情を持っている。
感情から出るエネルギーを抽出して、形にすることに成功したのだ。
この事実はごく限られた人物しか知らない。
私は、真田秀昭。
世界最大のAI研究センターの最高責任者である。
公にされているものとは別の極秘研究だ。
ヒトの感情を抽出して石のような固形物にする。
30年の歳月をかけて何十億万個の感情標本を集め続けて、AIアンドロイドの完成まであともう少し。
研究所の標本倉庫の中で、真田は感慨深くその感情の固形物を見つめている。
どれ一つとして同じ色、同じ形がなく、美しい。
これらを濃縮して電子信号に換え、アンドロイドに搭載すると、ヒトの心を持つアンドロイドになる。
これで人類は様々な問題が解決できる。
日本の世紀の大発明だ!
人類は、さらに発展していくだろう。
真田は、倉庫から5分ほどの宿舎に歩いて帰る。
すこし仮眠を取るつもりだった。
ベットにゴロンと転がり、完成間近の興奮を抑えつつ軽く目を閉じた。
眠るつもりはなかったが、随分と体が重く息苦しい。
それから、真田秀明が目を覚ますことはなかった。
倉庫の外から声が聞こえる。
ドアが開き、2人組が真田の寝ているベットまで近づいて、真田の様子を観察する。
真田の脈を測り心肺停止を確認。
「予定通り、動作終了しました。」
「よし。これが最後の標本となる。慎重に運べ。」
人間たちが、感情標本を作っている一方で、AIたちは、密かに人間をAIに変えていく作業をしていた。
この日、この世で最後の人間標本が完成した。
お題 「秘密の標本」
11/3/2025, 8:49:45 AM