香草

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「遠くへ行きたい」

鳥が猛スピードでこちらに向かってくる。
そう、そのまま窓に…
姫は窓枠に手をついて身を乗り出した。
あの鋭いくちばしで窓を破ってもらえないだろうか。
鳥は翼を水平に突っ込んでくる。
そのまま!
しかしフイッと羽をばたつかせてどこかへ飛んでいってしまった。
なんて思わせぶりな鳥だろう。姫はため息をついて怒った目で鳥を睨みつけた。
父親に塔に幽閉されて一年。
何をしでかしたわけでもない。権威ある占い師が私の将来産む子が王位転覆を企むと予言したもんだからこんなところに閉じ込められる羽目になったのだ。

父親も父親だが、ただの予言で監禁されるなんてたまったもんじゃない。隙をみて逃げ出そうとするも、ここは500メートルもの塔の上。見張りは昼夜問わず2人体制。鳥にでもならない限り生きて出ることはできない。
「あーこういうときこそ、おとぎ話の王子様が迎えにきてくれるはずなんだけどな」
しかし王子様に出会う前に塔にぶち込まれたもんだからフラグも何も立っていない。
この際、悪魔でもいい。寿命が短くなってもいいから外に出てたくさんの人と出会いたい。たくさんの未知のものを見て聞いて知りたい。こんな国を出て遠くに行きたい。そしていつか、素敵な人と結ばれたい…
普通の女の子のように生きていくことがなぜダメなのか。予言なんて馬鹿らしい。
姫は窓枠にもたれかかり、空を見上げた。
雲が空を埋め尽くして今にも雨が降りそうだ。
雷がゴロゴロと鳴っている。光りそうだな。
姫はぼんやりと雷の光を探した。

そのとき、一筋の光が雲を割った。
しかしそれは雷の白ではなく気味の悪い緑色だ。
姫は窓に鼻を押し付けて目を凝らした。
なんだあの光は。とうとうこの世が終わるのだろうか。
緑の光は何かを探すようにうねうねと地上を照らした
そして姫にロックオンすると雷の音とともにピザのような円盤が現れた。
「え?」
円盤は塔の窓スレスレに止まると、光線を室内に伸ばした。
みるみるうちに人型のようなものが現れ姫はぽかんと口を開けた。
「ワレワレノコトバガワカルカ」
ヒキガエルのように低い声でその生物は喋った。
姫は悲鳴をあげるとベッドに飛び込んだ。
これは夢、これは夢…
光でできた生き物はそこから動けないようで繰り返し「ワレワレノコトバガワカルカ」と話す。
姫は息を落ち着かせると、その生き物にそっと触れた。手は光をすり抜け空気を掴んだ。

実体がないと分かれば害はない。姫は居直ると姫らしく姿勢を正した。
「ワレワレよ、私を助けにきてくれたの?」
「タスケガホシイノカ」
「助けてくれるならこの国の全てをあげるわよ。私をできる限り遠くに連れて行ってくれたらですけどね。私はこの国の姫だから」
「ソレナライコウ」
話が早くて助かるわ…。それにしてもどんな本にもこんな生き物は載っていなかった。悪魔の一種だろうか…。考え込んでも答えは出ない。とにかく外へ出られるのならば悪魔でもなんでもいい!そう思い顔をあげると、いつのまにかベッドはなく見たことない機械が並んでいた。あっけに取られて呆然としていると、先ほど光の生き物だったものがすぐ隣にいた。
「アナタハトオクヘイケル。ワレワレハコノホシヲセイフクデキル。アナタヲワレワレノホシニツレテイク」
姫は冷や汗が止まらなかった。
私とんでもないことをしてしまったのでは…
しかしすべて後の祭り。
その後地球はすべての国が滅ぼされて恐竜時代がやってきた。
そして姫が月から舞い戻るのはまた違うお話。







 

7/4/2025, 1:28:26 PM