『君と見た景色』『bye bye……』『 曇り』
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!
くらえ、悪霊!」
九字を切り、目の前にいる悪霊を滅せんと正のエネルギーを飛ばす。
負のエネルギーの塊である悪霊は、正のエネルギーと相殺されてそのまま消滅する。
これが除霊の基本であり、どんな悪霊も無事では済まない
だが――
「Hahahahaha」
悪霊は全くダメージを受けた様子が無く、そこに立っていた。
何も起こらなかったかのように、そこに佇む悪霊
他の除霊士が匙を投げるはずだ。
俺が見た中でも、とびっきり凶悪な悪霊だった。
だが俺にはここで逃げるという選択肢はない。
コイツには莫大な賞金が懸けられている。
病気で苦しむ妻を救うためにも、お金が必要なのだ。
命の危険があろうとも、俺はここで引くわけにはいかない
「ノーマクサマンダ バザラダンカン!」
俺は別の呪文を試す。
一見して意味の分からない文字の羅列だが、不動明王の力を借りて除霊する強力な呪文である。
強力な分、こちらにも負担はかかるが向こうも無傷では……
「Oh……」
しかし、悪霊は困ったような顔をしただけで、ダメージらしいダメージが無い……
どうやらこの悪霊は普通の悪霊ではないらしい。
『次の呪文を』とは思うものの、何を試せばいいのだろうか……
さっきから色んな呪文を出ししているが、悪霊に全く様子が無いのである。
まずはコイツの正体を確かめるべきだ。
俺はダメ元で悪霊を問いただす
「おい、お前!
一体何者だ?」
「Cola and Pizza」
そこで俺は気づいた。
コイツ、アメリカ人の幽霊だ……
これはマズイ。
自慢じゃないが俺は学生時代、英語の赤点常習者だった。
お情けで卒業させてもらったので、微塵も英語を話すことは出来ない!
そして、他の除霊士が匙を投げた理由が分かった
俺を含む除霊士たちは、英語が出来ない。
『除霊士は海外に出ることは無いから、英語は不要』と舐めているからである。
学生時代のサボりが、ここで足を引っ張るとは……
もっと勉強すればよかった。
「ここままじゃ、妻の治療費が……」
なぜちゃんと英語を勉強しなかったのか。
過去の自分を殺してやりたい。
自分の迂闊さに殺意を覚える。
それがいけなかった。
迂闊にも悪霊から目を離してしまった俺は、一瞬で距離を詰めてきた悪霊に反応できなかったのである。
「しま――」
「Present for you」
悪霊の攻撃に、俺は為す術なく吹き飛ばされる。
壁に強く打ち付けられ、全身に痛みが走る。
このままでは殺される。
そう思い即座に前を向くが、しかし既に目の前に悪霊が立っていた。
悪霊は俺を殺そうと、禍々しい腕をこちらに伸ばす。
脳裏に浮かぶのは、妻との思い出の数々。
旅好きの妻に、あちこち連れまわされた暖かい思いで……
退院したら、また旅に出ようと約束したけれど……
「ごめんよ。
君と見た景色、もう見れそうにない」
「bye bye……」
悪霊手が俺の首を締めようとした、まさにその時だった。
「破ぁーーーーー!!」
突然目の前を青白い光で満たされる。
何が起こったか分からずパニックになるが、気がつけば目の前から悪霊はいなくなっていた。
「大丈夫か?」
そこにいたのは寺生まれのTさんだった。
なら、さっきのはTさんが得意な除霊光弾!?
まさか実際に目にするとは!
「Tさん、なぜここに」
しかし、俺とTさんは面識がない。
どうして助けに来てくれたのか、それが分からない。
「ヒーローは遅れて来るものさ」
と、渋い声で答えるTさん。
なんの答えにもなっていないが説得力がある。
さすが寺生まれだ。
「f〇ck」
吹き飛ばされた悪霊が立ち上がる。
俺の時と違ってダメージがあるようだが、それでも消滅には程遠い。
Tさんは悪霊を見て、不愉快そうに眉をしかめた。
「まさか俺の光弾に耐えるやつがいるとはね」
「アイツは強い!
ここは一旦引いて、策を練るべきだ」
俺の提案を聞いて、しかしTさんはニヤリと笑う。
「心配するな。
奥の手がある。
見ていろ」
ハアアアアと、気合を入れるTさん。
それに呼応するように、空がどんどん明るくなっていく。
さっきまで雨でも降ってきそうな曇り空が、Tさんを中心に晴れ渡っていく
Tさんは一体何をしようと言うのだろうか……
気迫に押された俺と悪霊は、ただTさんを見ていることしか出来なかった。
「破ぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
さっきより大きな声で、さっきより明るく輝く光弾を打ち出すTさん。
ボーっとしていた悪霊は、一瞬のためらいの後避けようとするが、もう遅い。
よけきれずに、光弾が悪霊に直撃する。
「Oh my god!」
悪霊が断末魔を上げながら消えていく。
あの悪霊も、これで悪さは出来まい。
「光あれ」
Tさんは決めセリフを言う。
カ、カッコいい。
「ところで、なんで空を晴らしたんですか?」
俺が素直な疑問をぶつけると、Tさんは笑顔で答えてくれた。
「曇ってるより、晴れてた方が気分がいいだろ。
悪霊も気持ちよく成仏できるさ」
これはTさんが正しい。
命のやり取りの中、悪霊のことまで考えられるなんて、さすがTさんだ
「ああそれと、君の奥さんも病気も直しておいたから。
賞金で旅に出るといい」
なんてこった、アフターケアまでバッチリである。
寺生まれってスゴイ、改めてそう思った。
3/25/2025, 1:43:02 PM