『嘘だけじゃ辛いでしょ』
いつまでも付き合ってくれるのは、単なる優しさだけではないはずだ。頼られると断れない性格も見返りを求めない気遣いもすべて「私だから」だという。嘘のような本当の話に私はどれだけ甘えているのか、知ることすら怖い。
ここは違うのに、いつも帰ってくる人をおかえりなさいと出迎える。嬉しそうに目を細めてただいまと返してくれるのを一日中ずっと待っていた。
頬に触れて、輪郭をなぞって、顎先から指先が離れる。一瞬の触れ合いを名残惜しそうな表情で終えて洗面所に向かう背中を眺めた。
今日は雨が降っていたから冷えたのだろうか。
うずくまったまま出てこないから何度も部屋を覗いて声をかけた。その度にひしゃげた声であーとかうーとか要領を得ない返事をするだけで出てくる気配はない。
温かな布団に乗り上げてたぶん頭がある位置を軽く撫でる。すると冷たい手だけ出してきたので近くにあった体温計を乗せてやると手は引っ込んで、モゾモゾと布団が動いた。しばらくしてピピピと電子音が鳴ると、特大のため息とともに体温計が放り出されて代わりに私を布団の中に引っ張り込むのだ。
体調が悪いときはいつもこうなる。薄暗い布団の中で寒さに震えるのが可哀想で私は体温を分けてやろうと身を寄せた。
泣いて、泣いて泣いてまた泣いて。壊れていく姿をただみていた。私はここにいるよと伝えることしかできない。
私にだけみせてくれる優しさだけは失わないからずっと好きだよ。だから泣かないで、あなたのことが大好きな私がいるから泣かないでいいよ。側にいて、同じ時間を同じ場所で過ごせばいいの。
『すぐに戻ってくるから待っててね』
そんな何でもない壺になんか縋ってバカみたい。
私はここにいるよ、嘘じゃない。
だからドアを開けて迎えに来てね。
【題:バカみたい】
3/22/2026, 2:56:53 PM