シトリン

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季節は春。
暖かく晴れた気持ちのいい日で、窓の外には桜が舞う。

デートとまではいかないけれど、一緒に散歩でもーーなんて。
休日のスタメンであるスウェットを手放して、ふんわりしたワンピースを着てみる。

薄くメイクをしたあと髪を巻こうとして、そこまで気合を入れるのはなんだか恥ずかしくてやめた。

少し浮ついた気持ちでリビングの扉を開ければ、彼はソファでゲームをしていた。

「ねぇ」
「んー?」
「今日、いい天気だね」
「ああ、そうだね。洗濯しないとなぁ」

そうだけど。そうじゃなくて。

話しかけても、一向に画面から目を離さない彼に苛立ってしまう。別に趣味に口を出したくはないけれど。

「……ゲームじゃなくて、私のこと見てよ」

ぽろり、出すつもりのなかった心の内をこぼしてしまった。え、と呆けたような声を出して、ようやく彼がこちらを見る。

恥ずかしい。柄じゃない。こんなバカみたいな我儘を言うなんて。

ポカンと私を見つめる彼にこっち見んなと思っては、さっきと真逆じゃないかと自分にツッコミを入れて、もう何が何だか分からない。

「それってどういう、」
「バカ、エイプリルフールだよ。本気にしちゃった?」

狼狽を悟られないように笑って見せれば「うそぉ……」と、困惑とも落胆ともつかない彼の声。それを振り切るようにして、リビングから逃げ出した。

自室の扉を閉めて寄りかかり、溜息をひとつ。

「……嘘だよ」

ほんとはいつも思ってる。
ゲームばっかりじゃなくて、たまには私のこと見てよって。

4/1/2023, 2:32:49 PM