三日月と、クロの背中
十月の夜は、薄い硝子を一枚隔てたような静けさがある。
空には、爪先でひっかいたような鋭い三日月。
銀色に研ぎ澄まされたその光は、どこか遠い誰かの落とし物のようだ。
ベランダに出ると、クロが足元に鼻先を寄せてくる。
「月がきれいだね」と声をかけると、クロはただ、ふさふさした尻尾を一度だけゆっくり振った。
彼の黒い毛並みが、月の光を吸い込んで少しだけ青白く縁取られている。
私たちは、言葉にならない感情の断片を、夜の風に溶かしてやり過ごす。
明日には忘れてしまうような、ささやかな寂しさと、確かなぬくもり。
三日月は少しずつ傾き、クロの背中の上で、静かに夜を深めていった。
1/10/2026, 8:06:46 AM