椋 muku

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※新年verで少し長めになります。ごゆっくりお楽しみ下さい

開店前の美容室。正月が終わるまで店は開けないつもりだった。だけど昨日、たまたま落ち着かなくて店に来た時に電話が鳴った。出なければ仕事もしなくて済んだんだろうに…条件反射で気づいた時には勝手に受話器を取っていた。

「もしもし…」

「もしもし。あの、美容室の店長さんですか?私です、えっと…」

声を聞いてすぐに彼女だとわかった。

「あー、陸上部の部長さんだぁ!どうしたの?」

「美容室っていつから再開しますか?そろそろ髪切りたくて」

これは!彼女と2人きりになれるチャンスかもしれない。

「正月開けるつもりなかったんだけど…よし、じゃあ明日の9:00においで」

「え、良いんですか?ありがとうございます」

「その代わり、明日1日僕に付き合ってくれない?門限までには帰すから」

「わ、わかりました!で、では明日また!」

ガチャと受話器が置かれた音とピーピーと電話の切れた音。明らかに動揺してた。

という訳で今日の8:50。出会って1年の彼女が来るのを緊張しながら待っている。するとチリンとベルが鳴って彼女が来た。

「おはようございます…少し早かったですか?」

し、私服!?破壊力が抜群で可愛すぎる。

「ううん、大丈夫。じゃあ先に髪切っちゃおうか」

そう言って相変わらず綺麗に保たれている彼女の髪に触れていつものように丁寧に散髪して髪を洗った。

「いつもいつもありがとうございます!かっこよく仕上がってて本当に凄いです!」

「陸上部の部長さんにそんなに喜ばれるとは嬉しいね」

「あの!店長さん。私にも名前があるのでちゃんと名前で呼んで下さい!」

「じゃあ蓮ちゃん、そろそろお昼にしよっか。」

拗ねて怒ってる所とか名前呼んだら照れる所とか可愛すぎだろ……///



「て、店長さん…カルボナーラ美味しすぎます!お店出せるんじゃないですか?」

「それほどでもないよ笑 というか僕だけ名前呼びとか不公平じゃない?僕も名前で呼んで欲しいな」

「…諒(りょう)さん」

て、照れてる照れてる。か、可愛い。

「はい、合格」

「諒さん…お店もですけどお家もお洒落ですね。しかも意外にお店から遠い気もする…ランニングしたら多分…」

「蓮ちゃん、変な方向に考えない笑 部活病出てるよ笑」

その後も僕は彼女と仲良く会話を続けた。気がつけば日が暮れかけていて時刻はPM5:30を回っていた。

「蓮ちゃん、門限大丈夫?」

「えっと6:30まで…なら」

「じゃあ最後の話題ね。蓮ちゃん今彼氏とかいないの?」

「彼氏はいた事ないです。性格も見た目も女の子らしくないし、そもそも女子として見られてないので」

苦しそうに笑う彼女に僕は胸が締め付けられた。

「じゃあ、好きな人とかは?」

「好きな人…は…い、います」

1度僕の目を見てからゆっくり視線を逸らす彼女。分かりやすすぎてすぐにでも想いを伝えてしまいそうだった。

「そっか。いるんだね、好きな人。青春は楽しまないと損だもんね。よし、じゃあ帰るか」

はい、と静かに一つだけ返事をして準備をする彼女。何も言わずにそのまま外へ出ようとするから。僕の体は勝手に動いていた。

「っ!諒さん…」

頭が狂いそうな程の甘い声。それに僕の腕に手を添えてくれるから僕は彼女をもっと強く抱き締めた。
誘ってるのかってくらいラベンダーの香りが惑わす。

僕はゆっくり離して彼女を車に乗せた。
少しだけ遠回りしてイルミネーションが輝く公園を回って行った。気まずいはずの沈黙は僕たちにとっては互いの気持ちが通じ合うような心地の良い時間だった。彼女を家の近くまで乗せた。

「今日は、ありがとうございました。凄く…楽しかったです」

シートベルトを外し出ていく彼女の姿がこのまま消えて行ってしまいそうな雰囲気をかもし出す。

「蓮ちゃん」

名前を呼べば振り返るって分かってた。大人の僕は少しだけ卑怯で彼女より子供っぽかった。

少しだけ長く口づけをした。彼女のファーストキス。こんな形でするつもりはなかった。ただ、歳の差という壁を越える原動力を与えたかった。なんて言い訳にはできないかもな。僕が好きだから、そう伝えても良いのだろうか。

「蓮ちゃんの好きな人。僕だったら良いのに…僕は蓮ちゃんにしかこんな事しないからね。じゃあ、おやすみ。また髪切りにおいで」

今までにないくらい彼女が動揺していたのがわかった。それでも丁寧に車を出てからもぺこぺこと頭を下げていた。本当に可愛くてたまらない。

家に帰るとさっきまで彼女がそこに居たんだと実感して胸が高鳴った。抱き締めた時に移った彼女のラベンダーの匂い。鼻の奥に張りついて甘さが今でも誘惑しているようだった。

よし、決めた。僕の今年の抱負は彼女が僕をブレずに好きだって思えるように距離を詰めること。成人するまでは待つけど、彼女の未来のパートナーになるために確実に準備を進めていくこと。
今年は忙しくなりそうだね。

題材「今年の抱負」

1/2/2025, 1:56:44 PM