シシー

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 「ぜったい、だいじょうぶだからね!」

 小さな手が、僕の頬をはさんで強引に上を向かせた。悪意なんて微塵も感じられない無邪気な笑顔が視界いっぱいに映る。こつん、と額を合わせてもう一度同じ言葉を繰り返した。

 小さな太陽みたいだと思った。
なんの根拠もないくせにその笑顔がすべて証明しているようだった。やまない雨はない、とか、そういう胡散臭いポエムとは違って目の前に完成品をぶら下げてそれ目掛けて走り出させてしまう、なんというか、パワーがある。

 バイバイって小さな手を振りながら、反対の手を親に引かれて去っていく見ず知らずの子ども。僕と同じネームバンドをつけているのが不思議なくらい元気な様子だった。
 いつか死んでしまうんじゃないか、もっと苦しむことになるかもしれない。尽きない不安とそれを助長する慣れない環境がつらくてしかたないのに、あの子はすごいな。

 「…ぜったい、大丈夫だよね」


             【題:部屋の片隅で】

12/7/2024, 12:32:55 PM